初めて車で行った場所

沁十レンナ

友人と海へ行った

僕は合宿免許という牢獄から出た後に、初めての運転で海に行こうと思った。


1人で行くのも心細くて友人を誘い、「俺たちはこれで最後かもな」と縁起でもないことを言いながら出発した。


友人は助手席で何をやっているかと思えば昔のゲーム機で遊んでいた。

昔やっていたRPGだろうか。


車のスピーカーからは僕の好きなミュージックリストがひそひそと流れていた。

最近聞いてる曲だとか、最近面白いことがあったかなど、他愛のない会話をしている内に交差点の信号で止まった。


「どうして人は海が好きなんだろうな」


友人はカチャカチャとゲームをしながら聞いてきた。


「海を見て暇を潰す以上の娯楽を僕は知らないな」


そう答えたら友人は少しニヤけて、くさいセリフを吐くなと言ってはケタケタと笑い出した。僕は少し怪訝そうな顔をして信号が青になるのを見つめる。


「俺たちって変わったよな」


またそんなことを言って、今日はこいつはそんな気分なんだなと察した。


「なんも変わってないさ。僕は少し聴く曲が変わったぐらいで、君に関しては昔のゲームを今更やってる」


信号はまだ変わらない。


「いいや変わったさ。お互い高校から別で今大学生になったけど、前の俺たちとは違うよな」


「そりゃ違うだろうよ。ただ関係は変わってないだけだよ」


友人のゲーム機から勝利曲っぽい音が流れた後に、少し遠くに風力発電のタービンが見えた。


「もうそろ海だぞ。あー、地味に冷や汗がやばいわ」


話している間にいつの間にか近くまで来たらしい。


「...お前に海に行こうって言われて嬉しかったんだ」


友人は言葉を続ける。


「俺は今でも中学の時を思い出すんだ。あの魔境みたいな空間で起きたことはほとんどが馬鹿みたいで楽しかったよな」


僕は少し黙ってしまい。その時を思い出したくない仕草をする。


「確かにあれは青い春なんかじゃなくて白い冬の空白の3年間だよ」


「空白ねぇ...ただあの時のお前は周りに合わせるのに精一杯で、自分の好きなんかどっかに置いてった奴だったんだよ」


それを聞いて自分は少し苦笑いをする。


「あの時はしょうがないさ。クラスで浮かないように立ち回っただけさ。ただ君は違ったけどね」


「俺はただ自分勝手だったんだよ。合わせるのが苦手だったんだ。それにお前に海に誘った時があったろ? けどお前は断った」


「まあ当時の君の自由奔放さに流されないように抗っただけさ」


そんな話をしているとすっかり海が見えてきて、ギラギラと太陽を反射している水面が見えた。


「俺海好きなんだよ。自由なだけでどうしようもない俺を受け止めてくれる感じがさ」



僕は間を置いて答えた。



「そいつは良かった」



何とか駐車場に停めることができて、車外に出ては眩しい日差しが出迎えてきた。


「おお!! 今日は最高に天気いいなぁ!!」


友人は馬鹿みたいにテンションが高くて、初めて海を見る子供みたいだ。


「なあ結局さっきの話の結論はなんだよ?」


遠くに行ってしまった友人に比較的大きな声で言う。


「お前が好きな場所連れていけるようになって安心したって話だよ!!」


友人はこっちも向かずに海に向かう。


「なんだよそれ...昔の僕ってそんな意志のない奴だったか?」


遠くから見えた風力発電はありえないほどデカく、止まらずに回り続けている。


「ぎゃー!! 今日風強ぇー!!」


「あ、クソ! 口に砂入った!」


僕は口に不快感を感じながらも、さらに海辺へと近づく。


「お前の運転で海行けるなんて思ってなかったわ!! 感謝だぜ」


今日の変なテンションについていけない僕。


「俺は自由すぎるからお前みたいな真面目な奴がいて丁度いいんだよ。絶妙な均衡っていうかなー」


また変なことを言い出したので、僕はふざけて海に押し倒そうとする。


「ちょ、押すなって!!」


「君がきめーこと言うからだよ」


お互い笑い合いながら結局ずぶ濡れになっていた。

友人は笑いながら言っていた。



「海はやっぱり自由だな!!」



あの交差点の信号はあの日のことを思い出す。


助手席には友人と遊んだ昔のゲーム機があって、あいつの好きな曲が車内で流れてる。





「僕のせいで海を見るのが少し寂しくなったよ」





あの日と同じ日に僕はまた海に向かっていた。

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