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「人に生の声、実体験を求めるならまず己も……なんてのは当然の話だからね。私も色んな経験をしてる……『しにいってる』、かな。でも誤解はしないでほしいよ、なにも心霊スポットにちょっと行ってみるとか、廃墟探検とか……そんな話じゃあないよ。そんなの今の時代、ネットの片隅の変なウェブサイトでも記事にしてくれない。まあそもそも、紙の心霊系とかホラー系の雑誌もほとんど廃刊、休刊な今の時代、この仕事自体……なんて話はま、置いておいて」
レナは酒を飲みつつ、楽しそうに語っている。
「ライターとして記事にするならやっぱり人から情報を集めたり、あちこち歩き回って調べないとね。そんな中で言うと……例えば、長野県の方に行った時にちょっと面白いことがあったよ。北部の方の町なんだけど……ちょっと変わっててね、結構広い町で住所的には同じ町内なのに、ちょっとした山を挟んだところの、少し外れたあたりに家が密集してるんだ。まるでそこだけ違う村みたいって感じ。少し前にね、仕事でそこにいってみたんだ」
レナが話してる間に、先程の店員のおにーさんが来て、レナの元に新しい酒を置いている。注文した様子がないのに持ってきているあたり、やっぱり常連なんだろうな。
「ところで、『忌み夜』って知ってる?」
「獣狩りの夜みたいなやつ?」
「何の話? まあ多分聞いたことないとは思うけどさ。私もその時初めて聞いたしね。調べても出てこないし、なんなのかよく分からない。でも、その地域……とくに、山の向こうの村みたいな所ではその『忌み夜』が深く信じられているんだってさ」
『忌み夜』……たしかに全く聞いたことないその言葉に、なんとも言えない響きを感じる。
「ね、絶対にろくなものじゃないって、響きだけで伝わってくる。だけど私はそういう『ろくでもないもの』を仕事にしてるし、好きなんだ。令和のこの時代にも、そんな時代錯誤な響きがまだ残ってるなんて、興奮してくる。もちろんそれが真っ当で真面目で真剣な儀式やお祭りであると言うなら、それこそ無形文化財にでもするべきなんだけど、ま、私がこうして話そうとしてる時点でね」
(もしかしてこの人って普段喋る相手いないのかな)
そんなこと思うほど、喋るのが楽しくて仕方がないというふうに見える。……まあ、悪い気はしない。
「私は日帰りのつもりだったんだけど、どうしてもその忌み夜がきになって……一日だけ滞在することにしてさ。適当に見つけて町中の宿に泊まろうとしたら、そこのスタッフに言われたんだ。『お客さん、今夜は忌み夜ですので」
「『絶対に外に出ないでください』、ですか」
「気になるのなら山の上の展望台に行ってみてくださいね。めちゃおもろいんで』って」
「エンタメ扱いされてませんか? 忌み夜」
これ怖い話だよな?
明けない夜の語り部 華園ひかる @yui_ms
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