小坂さんと荒牧ちゃん

革命 ー急激に発展・変革すること(デジタル大辞泉)

「諸君!革命の時はきた。今こそ立ち上がらなければならない!」


 時刻は朝八時。

 まだ人もそぞろな校門の前で、この私、荒牧らんは、ダンボール箱の上で日課の演説をこなしていた。


 なぜそんなことをしているのかって?

 もちろん革命のために決まってる。


 ……え、なんで革命するのかって?


 うるさい。黙れ。


「共産主義の夜明けだ! やはりマルクスは正しかった。経済に限らず、この世は理不尽な格差であふれかえっている!」

「おはよー、荒牧」

「おはよう!」


 横を通りすぎる眠そうな生徒にも、私は分けへだてなく挨拶する。

 当然だ。私は格差を許さない、ありとあらゆる意味での共産主義者なのだから。


「クスクス。毎日よくやるよね」

「笑っちゃダメだって。本人はマジなんだからさ」

「つーか、ふつうにヤバい人だよねー」


 数人の女子生徒が、私を白い目で見つめながらそんなことをコソコソ話すが、なんのそのだ。


 自ら声をあげることもできず、どころか他人の主張を笑うことしかできないなんて、まさしく衆愚の典型。

 彼女たちはこの忌まわしいヒエラルキーの温床学校で、ブルジョワ陽キャからの批判を恐れ、個性を殺してまともなフリを余儀なくされているのだろう。じつに可哀想だと思う。


「富の再分配が必要だ! 君たちの周囲にもう一度目を向けてみろ。どうだ! スポーツ万能、成績優秀、美男、美女、陽キャ……不平等まみれではないか!」

「いよっ、いいぞマキマキー」

「革命がんばれー、くくっ!」

「おい、やめとけって!」

「応援ありがとう!」


 それに、まあ、ハッキリ言ってご馳走様だ。


 彼らの「うわっ、あいつマジだ」みたいな顔など、まさしく垂涎モノと言える。


 こんな寒空の下で、こんな健気でいたいけな少女が、白い息吐き必死に演説……しかし誰にも相手にされず、向けられるのは興味なさげな挨拶か、あるいは冷気を帯びた見下す視線。


 まさしく「孤高の革命家」って感じがするでしょ?


 彼らが私を笑い、冷たい視線をおくる度に、私は心の底から満たされる。

 「ああ、今すっごい革命っぽいことしてる」という充実感を与えてくれるのだ。


 これだから演説はやめられない。

 一切れのパンとバターよりも、よっぽど私の朝食たりえている。


「立ち上がれ諸君!肥えた資産家どもから奪われたものをとり返し、再び全ての資本を平等に振り分ける時だ! これこそが富の再分配である!

 この資本主義国家日本に、我ら共産主義の到来でもって一泡吹かせてやろうではないか!」


 決まった……。


 もう、脳内の快楽物質がとんでもないことになっているのは、明々白々の事実だった。


 私はいま、世界で一番かっこいい。なぜなら、世界で一番かっこいいのは革命家だからだ。


 今日のはかなりうまかった。あまりに決まりすぎていたせいで、ぱちぱちと拍手の幻聴がするほどだ。


 ほら、ぱちぱち、ぱちぱち……


「ぱちぱち」


 ぱち……


 ん?



 ふと下を見ると、二年B組、同じクラスの小坂さんが、無表情で「ぱちぱち」と言いながら手を叩いていた。


 どうやら、幻聴ではなかったらしい。

 私は思わず「げっ」と口にしそうになる。ここ最近、彼女は私の一番の天敵だったのだ。


「おつかれさま、荒牧ちゃん」


 小坂さんはクラスでも大人しい子で、特に仲がいいわけでもないのだが、なぜか私を苗字かつ「ちゃん」づけで呼ぶ。「らんちゃん」とかならまだわかるのだが、さすがに「荒牧ちゃん」はちょっと聞いたことがない。


「はい、タオル」

「あ、ああ。ありがとう小坂さん。でも汗かいてないから、別に…」

「そっか……ごめんね。私、よけいなことしちゃったかな」

「そっ、そんなことないよ! やっぱりタオル貰おうかな。なんか急に汗が…あははー」


 悲しげに目をふせる小坂さんに、私の「革命家キャラ」が音を立てて崩れ落ちる。たった数言交わしただけの、この一瞬で。

 調子が狂う。やっぱり小坂さんは苦手だ。


 いわゆるファンと言うやつなのだろうか。彼女は決して偶然そこにいたのではない。わざわざ私の演説を聴きにきているのだ。


 こんな、あり得ないぐらいの早朝から。


 自分で言うのもヘンな話だが、ハッキリ言って、かなり変わってる子だと思う。私はどストレートな自己顕示欲で奇行に走ってるからいいものの、小坂さんは素でやってそうなのがまた怖いところだ。


「いい演説だったよ、荒牧ちゃん……!」


 小坂さんはふんと白煙を吐き、まっ白な手が赤くなるぐらいに握り拳を作る。

 その仕草たるや、凶悪的なかわいらしさだ。こういうところも、私にとってやりにくい部分ではある。


「よかった。すごく」

「うん……いつもありがとね、小坂さん」

「小坂党員」

「……え?」

「小坂党員で、いこう」

「いや、まだ党とかできてないよ?」

「私と荒牧ちゃんで、革命党だよ」

「えー……」


 うわぁー!だっるぅ〜!


 何が面倒って、なまじっか小坂さんが本気だから、いまさら「これは言ってしまえば自己満で、公序良俗を順守したオナニーだから」なんて言えないところが特にダルい。

 しかし小坂さんを裏切るわけにもいかず、私はほどほどに話を合わせるしかなかった。


 そして私には、小坂さんにどうしても逆らえない理由がもう一つあった。


「やろう。富の再分配」

「そ、そうだねー……生徒会とか立候補しようかな?」

「ダメだよそんなんじゃ。社会基盤から破壊しないと」

「いや…あの、私はもっと平和的な方法をだね……」

「ダメ。ナショナリズムは強いんだよ。校長室爆破しよう」

「え、えぇー……」


 これは、決して比喩とか冗談とかではない。小坂さんはマジだ。

 私は先週の放課後、彼女のスクールバッグにモロトフ・カクテル火炎瓶が忍ばされていたのを、確かに目にした。


 モロトフ・カクテル未成年が所持できないはずのウォッカ

 モロトフ・カクテル大人でも持ってたら捕まる

 モロトフ・カクテル学校を火の海にできる兵器である。


 そう。小坂さんはゴリゴリの過激派ポルシェヴィキなのだ。彼女の脳内は溢れんばかりの危険思想で満たされており、よもやテロリストまっしぐらなのである。


 私はこの自らが生み出した悲しきテロリストの手綱を握り、彼女の手から火炎瓶が放物線を描いて飛んでいくのを阻止しなくてはならない。


 ああ、なんと呪われた因果。


 ハムレットも顔面蒼白である。



「小坂さん、あの……ハッキリ言うけどね」


 私は息を吸い込み、意を決して小坂さんに向き直る。

 至福のひとときと、学校を守るため。私は小坂さんと決別しなくてはならない。


「どうしたの。同志荒牧ちゃん総統」

「なんか肩書きが二、三個くらい増えてるけど……まあいいや。

 私は確かに革命の成功を願ってるけど、だからって校長室を爆破したり、生徒会長を暗殺したり、学校中のブルジョワ連中をさらし首にしたいわけじゃないの。わかる?」

「……うん、わかる」

「それに、私は小坂さんのこと、あんまり知らない。

 応援してくれるのは嬉しいよ。でも、革命の仲間かって言われると、ちょっと微妙」

「うん……うん」

「ご、ごめんね? 別に小坂さんが嫌いとかじゃないけど……ちょっと、先走りすぎかなって」

「………」


 今の話は、さすがの小坂党員もグサッときたようだ。


 彼女は口を三角にしてうつむき、ふるふると目を潤ませる。思わず胸が締めつけられそうだった。


 許せ、小坂さん。

 実を言うと、私は「革命家の自分」が好きなだけで、実際に革命するとかはどうでもいいんだ。


「わかった……じゃあ、これはいらないね」


 小坂さんはしおしおとしゃがみ込むと、学校の塀の片隅に、三本のウォッカ瓶をコトリと置く。


 思わず周囲を確認したが、幸いにも、先生や他の生徒が見ている様子はなかった。あぶねえ。


「これも」


 次に、二つの目出し帽。それは何に使うつもりだったんだ。なんか私の分もあるし。


「これも……」


 ガチャッ。



「………」


 ガチャッて、音した。



「こ、小坂さん……これは?」


 私は戦々恐々としながら、先ほど小坂さんが置いた物……というかブツを、視界の端でとらえる。


「……AK-47、カラシニコフ」

「じ、銃、だよね……? モデルガン?」

「ううん。本物」

「火炎瓶の時も思ってたんだけど……どっから手に入れてきたの? ていうか、そのスクールバッグのどこに入ってたの?」

「お父さんの、秘密のロッカーの中」


 ゴリゴリの反社じゃん……小坂さんのお父様。


 まさかあの小坂さんが、ここまでヤバい子だとは夢にも思わなかった。

 最初は百合の花のような印象だったが、今ではラフレシアも超えて、もはや生物兵器のレベルにまで達している。



「オーウッ!あなたタチ!」


 そんな最中、背中から突然声がした。


 思わず振り返る。留学生のデイブだ。


「ジャップがコソコソ、何してますカ?」


 デイブは自分から日本に来たくせに、思いっきり日本人を差別している、これまたヤバいやつだ。


 しかし、今はそれどころではない。

 逃げろデイブ。

 お前よりヤバくて銃の扱いに慣れたやつが、すぐそこにいる。


「日本人すぐコソコソしますネー、よくないと思いまス。私のアメリカでは……」

「デイブ。後で聞くから、どっか行ってくれない?」

「なんでデスか?おや、そこにナニカ……」

「デイブ頼む。デイブ!」


 ――パァン!


「ぁ……」

「……」

「グ、グフッ……」


「デイブゥゥゥゥ!」



「やった」

「殺った。じゃないよ! なにやってんの!」

「見られたから」

「なんでそんなに迷いなくいけるの⁉︎ どうすんの、デイブ死んで……」

「オ、オッケー……」


 そう言いつつデイブの方を見ると、彼は弾丸がめり込んだ生徒手帳を掲げ、親指をまっすぐ立てていた。


 ああ、なんだ死んでないのか。それはそれでちょっと残念だ。デイブうざいから普通に嫌いだったし。



「おいお前らァ!なにやってんだ!」


 そして次の犠牲者、体育教師の川瀬が現れる。


「なっ、何があった⁉︎ おいデイブしっかりしろ! デイブ? デイブゥゥゥゥ!」

「か、川瀬先生、これは違うんです……」

「違うもクソもあるかァ! とにかく生徒指導室まで来い!」


 いや、ここまでいったら取調室のほうが妥当だと思うけど。


「なんだ?なんかすげえ音したけど」

「え……あれ、銃?ホンモノ?」

「荒牧と……小坂さんじゃね?また荒牧が変なコトやったのか」

「え、でも小坂さんが銃持って……」


 ヤバい。


 もうヤバい以外の語彙量がなくなるくらい、ヤバい状況になっていた。


 騒ぎを聞きつけた生徒たちは、登校中の者も部活中の者も含めて、私、小坂さん、川瀬(デイブは歩いて保健室に行った)を中心に円を作る。


「あ、あの……これは」

「荒牧ちゃん」


 小坂さんが私の肩を叩く。



 彼女の口は、ハッキリと、そんな動きをしていた。


 その手には、もう一丁のカラシニコフと目出し帽。


「………」



 ――タタタタァン!


「さがれェお前らオイ! マジぶっ殺すぞ!」

「川瀬先生がどうなってもいいのかなー、殺しちゃおうかなあー!」


 事態はもう、どえらいことになっていた。


 私たちは川瀬を人質にグラウンドまで移動し、一旦そこで陣を構えることにした。


 その間もずっと穏便な終わらせ方を考えていた私だったが、あれよあれよと人だかりは増えていき、ついには机のバリケードまで構築される始末だった。

 バリケードの向こう側では、青い顔をした教職員や、スマホ片手に野次馬をする生徒たち。数はゆうに百を超えている。


 こうなれば、後に退くことはできない。


 私は覚悟を決め、勇猛果敢に闘争を選択した。


 あるいは、「ヤケクソになった」とも言う。



「おい荒牧ー。あたしだー、担任の郁村だー」


 群衆をかき分け、バリケードの向こう側から、眠そうな顔の郁村先生があらわれる。


 第一声で私の名前を呼んだことから察するに、おそらく主犯にされてしまったのだろう。

 なんて理不尽な話だ。私はただ、一人のクラスメイトを守ろうとしているだけなのに。


「目的はなんだー? もしかして、あたしが国語の成績1にしたの、まだ根に持ってんのか?」

「ちがわい! 革命すんだよ! この腐った社会基盤を……なんかこう、ぶっ壊してやんだよォ!」

「そうだそうだー!」

「おー、壮大な夢もってくれて、先生なんだか嬉しいぞー。

 でもな荒牧ー、革命するなら、ちゃんと世界史と現社以外も点とらねえとダメだぞ」

「うるせェ! 一人一人の個性無視して、成績という名のヒエラルキーで適当な優劣つけやがって……人間は生まれた時点で偉いんだよ!」

「その通りだー! 成績なんていらないぞー」

「私たちは富の再分配……成績の再分配を要求するっ!

 全員が等しく金メダル。そんな夢のような学校を作るのだ!」

「そっかー。先生はよくわかんねえけど、立派な考えじゃねえか。

 でもその要求だったらさすがに川瀬の命の方が軽いわ。サクッと殺してやってくれー」

「ヤバいあいつ! 損得勘定がとんでもないんだけど!」

「さすがは、郁村先輩だ……」

「言ってる場合か! あんた死ぬんだよ⁉︎」

「足撃つね、川瀬先生」

「まてまてまて! おちつこう、小坂さん」


 銃の安全装置を外した小坂さんに、私は慌てて飛びかかる。

 デイブはまだいいとして、先生を撃つのはさすがにマズい。


「はなして、荒牧ちゃん……!」

「ぜったいダメ! 私のバカみたいな日課が、こんな悲劇の引き金になるとか、ゆるさないから!」

「革命には、暴力がつきものなんだよ……昨日読んだマルクスの本にも、そう書いてあった……!」

「それは古い考え……ちょっ、とにかく聞いて!」


 全身の力をふり絞り、私は小坂さんの手から銃を払いのける。


 聴衆どもから「わっ」と声が上がり、少し離れた砂場に、AKなんたらが砂埃をたてて転がった。


「はあ……はあ……」

「荒牧ちゃん、どうして……」

「……これは、交渉決裂だよ。諦めよう」

「……!」

「人質は川瀬だけだし、これ以上やっても、私たち警察に捕まってそれでおしまいじゃん」

「でも……」


 私は目出し帽を脱ぎ、それを適当な場所に投げ捨てる。

 視界の端でスマホのカメラが見えたが、気にしないことにした。


「小坂さん……いや、小坂ちゃん!」

「……」

「ありがとう!」

「……!」



 全ての音が、止まる。

 「シン…」という音が聞こえそうなほどだった。



「私、小坂ちゃんが革命を真剣に考えてくれたの……最初は面倒だって思ってた。ごめん!

 でも気づいた。小坂ちゃんは本当の本当に真剣で、私のことを思ってくれてたんだって!」


 「昨日読んだマルクスの本」と、先ほど彼女は言った。それが、私の知る彼の代表作、「資本論」であるならば……とてつもないことだ。


 資本論は真剣な学術書だから内容も難解だし、ページ数も文庫本とは比にならない。私だって一年かけて何度も読み返して、やっと内容を理解できたのだ。


 それを、こんなくだらないことのために……私なんかのために、読んできてくれた。


 小坂ちゃんは革命に本気だった。

 でも、それ以上に、私への思いも本気だったんだ。



 その証拠に、小坂ちゃんは……。


「小坂ちゃんは、私と革命してくれた」

「……」

「こんな大変なことになってるのに、言葉だけじゃなくて、実際に協力してくれた」

「荒牧ちゃん……」

「それに……こんなの、最高の思い出だよ! 夢にまで見た革命が、もう目と鼻の先にあるんだから。

  私、ずっと革命家に憧れてた。夢が叶ったんだよ! 小坂ちゃんのおかげで!」

「う、う……」


 ずり上がった目出し帽の下で、小坂ちゃんの唇がギュッとしまり、そして緩む。


「ごめんね……荒牧ちゃん」

「……」

「私、本当は……荒牧ちゃんと友達になりたいだけだったんだ」

「……うん。なんとなく、そんな気はちょっとしてた」

「お父さん、その……人に言えないお仕事してるから、ずっと避けられてて……荒牧ちゃんならって、思ったの」


 それはお父さんのせいだけじゃなくて、普通に小坂ちゃんがヤバいのもあると思う。

 あと「荒牧ちゃんなら」ってセリフもちょっと引っかかるし。


「……小坂ちゃん」


 私は小坂さん改め、小坂ちゃんの手を握る。


 聴衆たちは口をあんぐり開けて、ただ私たちに驚愕していた。

 目を見開き、何がおこったのかを、しかと見届けようとしていた。


 そう。これこそが、私の求めた革命だった。


「……わかってる。もう、十分だよね」

「そう。名残惜しいけど、私たちの革命はもうおしまい。

 これからは革命家なんてやめて、普通にJKっぽくスタバとかタピオカ飲もう」

「うん……!」


 私たちは手を繋ぎ、二人でグラウンドの土を踏みしめる。

 拡声器を持った郁村先生が、それを迎え入れるかのように声をあげた。


「なんかわからんが、いい決断だと思うぞ、荒牧ー。投降するなら今のうちだー」

「……ちょっとだけ、悔しいね」

「うん……でも大丈夫だよ、小坂ちゃん。郁村先生もああ言ってるし、謝ったら許して……はもらえないか。そこは割り切るしかないね」

「捕まったら、どうしよう」

「あはは……まあ、軽く実刑は避けられないよねー」

「同じ刑務所、行けるといいね?」

「そうだね。そこにスタバがあったらもっといいのに」



 これで、革命はおわり。


 なんだか少し寂しいような、肩の荷が降りたような、不思議な気分だ。

 ……親になんて説明したら、とかは、この際だから気にしないでおこう。



「大丈夫だー。今なら警察は来ないぞー」

「……え?」



 郁村先生の一言に、思わず足が止まる。


「デイブも無傷だし、大事おおごとにはしねえってよー」

「い、いやいや、郁村先生。そんなワケな……」

「USAではニチジョウ。ジャップ貧弱デース、とか言ってたぜ」


 うわぁ……言ってそう。超殴りたい。


「それに小坂の父ちゃんが、エッグいコネ使って警察止めてんだってよー」

「えっ」


 続く郁村先生のに、とうとう気づいてしまった小坂ちゃんも足を止める。


「やっぱすげえなー、小坂の父ちゃん。セカンドパートナーとか募集してねえかな〜?」

「それって……」

「……あ」


 ふと小坂ちゃんの方を見て、郁村先生も「あ、やっちまった」みたいな表情で顔を上げる。


 もちろん、セカンドパートナー云々のことではない。



「それってつまり、あとどれだけ暴れても、警察はこない……ってこと?」


 その場の全員が、先ほどとは別の意味で静まりかえった。



「待って、小坂ちゃん」

「いや」

「いや待とう。言ったじゃん、もう終わりって」

「思い出、まだ欲しいよね?」

「ううん大丈夫。ぜんぜんいらないかも。お腹いっぱい」

「いいの荒牧ちゃん。私のお父さん、ホントにエッグいから」

「うん。だからやめようって言ってんの。借り作るの怖いし」

「荒牧ちゃん……」


 ――キーンコーン……


 朝のチャイムが、鳴り響く。


「革命、セカンドシーズンだね」

「………」


 ――カーンコーン


「ぜっっ……」


 私は肺に空気をめいっぱい送り込み、その音に割りこまんばかりに、声を張り上げた。



「たいにィ! やらないっっっ!」

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小坂さんと荒牧ちゃん @hibiki523

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