第4話
「二枚目忘れたこと、俺も何回もある!」
「……え?」
「社会と、国語。やけにテスト時間余裕じゃん! って思ったら、二枚目見落としてたことある。母さんにめっちゃ怒られたけど」
勇人は私のことを笑わなかった。
「社会はまだマシだよ。国語の二枚目見落としたら、後半は記述問題が多くて配点高いからマジでヤバイ」
「勇人……それ、すごいね」
国語も得意な私は難しい言葉だってたくさん知っているはずなのに、勇人の話を聞いて「すごいね」という言葉しか出てこなかった。勉強してたくさん難しい言葉を覚えたって、使えなければ意味がない。やっぱり私はまだまだひよこなんだ。
涙と一緒に出て来た鼻水をすすりながら、私は勇人の服をつかんで歩き始めた。
「志穂、どこ行くん?」
「……さんに」
「え?」
「駅員さんに相談して、最寄り駅まで乗せてもらおう。駅までお母さん迎えに来てくれてるだろうから、そこでお金もらって精算すればいいじゃん」
勇人は私に引っ張られながら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「俺、駅員さんにそんな高度な説明できねえー!」
「何言ってんの? 全然高度な説明じゃないし。行こう!」
私たち二人は窓口で何とか駅員さんに事情を説明して、無事に改札を通って電車に乗ることができた。
ICカードを使ってお菓子の買い食いをしていたことを怒られるんじゃないかと心配しているのは私だけで、やっぱり勇人は何も考えてなかった。
仲良しの男子四人でお菓子を分けるから、四の倍数分の個数が入ったお菓子しか買わないんだ! という勇人の話がおかしくて、電車の中でおなかが痛くなるほど笑った。
私よりも勇人の方がよっぽど、塾で習った勉強を日常生活に生かしていることに気付いてしまったから。
「あ、 勇人のお母さんあそこにいるよ!」
「うわあ、遠いな。大声で呼ばなきゃ」
「いいよ。私が改札出て、勇人のお母さんに事情説明してきてあげる」
勇人の肩をポンと叩いて歩き始めた私のうしろから、勇人が大きな声で「ありガトーショコラ! ありガトーショコラ!」と何度も言いながら、両手を大きく振っている。
私はこみ上げてくる笑いをこらえながら、一人で改札口を出た。
――ピヨピヨ。
もう、このひよこの声を聞いてもイライラしない。
勇人が改札から出て来ないのを怪訝そうに見つめているお母さんに向かって、私は走り出した。
―――
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