第3話
樹里の夏期講習の失敗のことをバカにしたから、バチがあたったのかな。それとも、勇人の買い食いが親にバレればいいのにって意地悪なことを考えたからかな。
周りのひよこたちの中で自分一人がニワトリのつもりでいたけど、私だって十分ひよこだった。答案用紙の二枚目を見落とすなんて、この塾の歴史の中で私一人だけかもしれない。
日が落ちて暗くなった通りの信号を渡り、駅の構内に入る。ひよこの証である小児用ICカードを取り出して改札に入ろうとしたところで、改札横にいる勇人の姿が目に入った。
「あれ? 勇人。 帰らないの?」
「カードの残高がなくなっちゃって、改札入れなかった!」
勇人はICカードの入ったホルダーをぶんぶん振り回しながら、笑顔で言う。
「え? じゃあどうするつもり? 携帯でお母さんに電話した?」
「携帯も忘れたし」
「はあっ?」
カードの残高はなくなり、連絡手段である携帯電話も忘れて来たと言いながら、なぜか笑顔で突っ立っている勇人を見て、体の力が一気に抜けた。
(こっちは答案用紙の二枚目を見落としただけで、こんなに辛くて悲しいのに!)
そう思うと、これまで我慢していた涙が両目から滝のようにあふれ出した。
「なんで泣くんだよ! 志穂は家帰れるじゃん。泣きたいのは俺だよ、ハハッ!」
「二枚目……見落とした」
「二枚目?」
「うん、社会の。答案二枚あるの気付かなかった」
笑うよね。バカにするよね。
今まで私の方が散々勇人をバカにしていたんだから、勇人から何と言ってバカにされても構わない。
涙と一緒に私のニワトリの化けの皮がはがれ、ひよこに戻っていく。
―――
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