第2話
「はい、社会のテスト終了。鉛筆を置いて下さい」
試験監督の先生の声で、みんなが一斉に鉛筆を置いた。教室の中にはどこからともなく数名のため息が響く。その悲痛なため息を聞いて、私の口元はほころんだ。
今日のテストのために、行きの電車の中でもテキストを眺めて入念に最終確認をしてきた。内容はバッチリ頭に入っているし、答案用紙も全部埋めた。もしかしたら満点なんか取っちゃって、クラスで一位表彰されたりして。
前の席から順番に答案用紙を集める先生に、自分の自信作である答案を堂々と手渡した。
「志穂。もう一枚あるだろ、出して」
「……え? もう一枚?」
「あ、これこれ。二枚目ももらうね」
私が手渡した答案用紙の下にあったまっさらな答案用紙を、先生が取り上げる。
(うそ……社会の答案用紙って、二枚あった?)
慌てて後ろを振り向くと、後ろの席の子たちもみんな二枚ずつ答案を先生に渡している。
指先から頭のてっぺんまで、サーっと血の気が引いていくのが分かった。あんなに頑張って暗記したのに、テスト中も時間が余って念入りに見直していたのに、二枚目の答案用紙があることを見落としていたなんて。
手元に残った問題用紙のページを、もう一枚めくって確かめる。そこにはちゃんと、社会の問題の続きが印刷されていた。
そのまま続けて国語のテストも受けたけど、社会で失敗したことが尾を引いて集中できない。結局、国語も空欄だらけのまま答案を提出する羽目になった。
テストが終わり、教室から出て行くみんなの背中を見送りながら、私一人だけが椅子から立ち上がれずにいた。そんな私を見かねたのか、試験監督をしていた先生が、私の前の席に座った。
「どうした? 志穂にしては珍しいミスだな」
「はい……先生、どうしよう」
「今回は仕方ないけど、答案用紙の右下に何枚目まであるか書いてあるだろ。次からそこ確認するんだぞ」
傷心の私を慰めてくれるのかと思いきや、傷に塩を塗られただけか。
冷たい先生に何とか声を振り絞って返事をすると、私は席を立って塾を出た。
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