ぼくらのサクセスロード
秦 朱音 Ι はたあかね @書籍発売中!
第1話
――ピヨピヨ、ピヨピヨ
小児用ICカードを改札口にタッチした時の、あのバカにしたような音が大嫌い。ピヨピヨとひよこの声がするたびに、「ああ、またお子ちゃまが近付いてくる」って思ってイライラする。
『オオモリシホ』と印字された自分のICカードを使って改札を出ると、私の背中にもピヨピヨが降り注いでうんざりした。早く中学生になって、このピヨピヨともサヨナラしたい。
「志穂ちゃん!」
「あれ、樹里!」
「塾一緒に行こうよ」
「うん、いいよ」
私と同じ電車だったのか、改札を出たところで友達の樹里に声をかけられた。何も、目と鼻の先にある塾まで一緒に行く必要なんてないじゃないかと思ったけど、誘われてしまったら仕方がない。
目の前でひよこが困っていたら、優しく手を差し伸べてあげなくちゃ。
今日は月に一回のテストの日で、塾に向かう子たちは心なしか浮き足立っている。
信号待ちをしている間、隣にいる樹里はキョロキョロしたり靴紐を気にしたりと落ち着きがない。樹里は元々ぼんやりした子で、この前の夏休みも塾の夏期講習に行くはずが、いつものくせで間違って小学校に行ってしまったらしい。
誰もいない小学校の正門の前まで来て初めて行先を間違ったことに気付いて、泣きながらお父さんに電話したそうだ。そんな樹里と自分が成績順に決まる塾のクラスも同じだなんて、ちょっと複雑な気分だ。
「ねえ、志穂ちゃん。勇人君たち、またコンビニでお菓子買い食いしてるよ」
樹里の視線の先に目をやる。塾の階下にあるコンビニの前で、私たちと同じ小学校の勇人たち数人が円になって、お菓子の袋に手を突っ込んでいる。
「本当だ。親に内緒で、電車のICカード使って買い食いしてるんだよ。きっと」
大笑いしながらお喋りしているひよこ男子たちは、いつもこうして塾が始まる前に買い食いをしている。ICカードの残高で買い食いなんてしていたら、そのうち親にバレると思うんだけど、そんな簡単なことにも気付かないんだね。
あっちにもひよこ。
こっちにもひよこ。
ピヨピヨ、ピヨピヨ。
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