「セニータは、先月からほとんどここにいて、リリスの面倒を看てたの。で、リリスの様子がおかしくなった一昨日から、ずっとこんな調子」


「一昨日から? ……連絡してくれたらよかったのに」


「リリスも嫌って言うんだもの。玄界の海は、今頃は最後の嵐で荒れるころでしょ? お忙しいコニお姉様に心配をかけるのは嫌って」


「そうかもしれないけど。ペペ、なにか温かいものを用意するように言ってくれる?」


「もう言ったわ。そろそろ来ると思うけど」



 ぱっとセニータが体を起こそうとする。使用人の前でこんなに取り乱しているのを見せるのは、不本意だろう。ペペが小さく手を振る。



「あたし、廊下で待ってよう。ララ、一緒においで」


「はい」



 ペペなら上手く言って、使用人を中に入れないだろう。一際小さなララがとことこついていく。



「セニータったら。コニお姉様、来てくれたのは嬉しいけど、本当にお忙しくない?」


「大丈夫よ。今年は嵐が三回しか来なかったの。どれだけ忙しくったって、妹の葬式に出ないなんて、そんなことするわけないわ」



 ドアが開いて、ペペとララがワゴンを押しながら入ってくる。大きなポットと、バスケット、丸い皿が載っている。ララが席の前にカップを一つ一つ並べて、重たいポットはペペが真ん中に置く。お皿にはスコーンとビスケットが入っていて、バスケットにはそれにつけるためのジャムが何種類かあった。ペペが小皿に分けて、サーブするまでやってくれる。


 ララが小走りで窓辺の安楽椅子を机のそばまで引っ張る。ついでにクッションを取ってきたのは、椅子に座るのを嫌がる彼女が床に座るためだろう。



「さあセニータ、お茶を飲みましょう。今後のことを話さないと」


「ええ、お姉様」



 ゆっくりセニータが体を起こす。膝の上が濡れたわたしのスカートに、レースのハンカチを当てようとするのを止める。



「大丈夫よ」


「いえ、わたくし、なんて恥ずかしい。コニお姉様の服をダメにしてしまったわ」


「気にしないで。ヴィヴィ、席を取っちゃってごめんなさいね」



 ソファのひじ掛けに軽く腰掛けていたヴィヴィが肩をすくめて返事をする。暖炉の前の自分の椅子に戻る。話しながら食事をするのは少し無作法だけど、今日くらいはいいだろう。床に置いたクッションの上に座ったララが、上目遣いでこちらを見上げる。



「コニ姉様が来るまでにわたし、前あったお葬式について少し調べたわ。毎回だいたいおんなじ様式らしいから、前回のお母さまのお葬式と同じ式次で、同じお客様でいいと思うの」


「ありがとう。だったら今度は少し楽できそうね」



 お母さまのお葬式は島中流行り病で忙しかったのもあったけど、今までそういうことを取り仕切ってくれていた母がいなくなったことで、忙しいことこの上なかった。自分たちの母の葬式ではあったけど、あまり哀しむ暇もなかった。あら、とヴィヴィが声をあげる。



「でも、前回は流行り病があったら、人数を少なくしたでしょう? 今回はそういうこともないのだし、客は増えるんじゃない?」


「それもそうね……」


「でも、リリスは城主になったわけじゃないし、そんなに大げさにしなくてもいいかもしれないわ。少なくとも島の外の人は呼ばないと思うの」


「えー? しばらく外の人を呼んでないじゃないの。そろそろちゃんと他所の人呼ばないと、情報不足よ。この機会に、たくさん呼びましょうよ」


「――リリスの葬式をそんな風に言わないで!!」

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2024年12月12日 20:00 毎日 07:00

花珠姫物語 天藍 @texinenlan

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