セントロの北門で、馬から降りる。見張りの兵士に馬を預けて、歩き始める。ペペがくるっと振り返って、後ろ向きに歩き出す。



「カルロータ、おはよう。挨拶が遅れてごめんなさい」


「ペルペトゥア様、おはようございます。こちらこそご挨拶が遅れました」


「そんな風に呼ばないでいいのに。アメリタ夫人は元気?」


「はい、大きな病気はしておりません」


「ペペ、前を向いて歩いて」


「大丈夫よ」


「またヴィヴィに叱られるわよ。いま怪我されたら、本当に困るからやめて」



 くるっとペペが回る。すねの真ん中の丈のスカートが広がった。北門は裏口になるので、あまり人通りはない。兵士に扉を開いてもらって、城の中に入る。だれもいないだろうと高を括っていたら、執事長が数人の使用人を連れて控えていた。



「コンチェッタ様、ようこそいらっしゃいました。妹姫様たちがお待ちです」


「ありがとう。こんな、出迎えなんてよかったのに」


「一の姫様がいらっしゃるのに、そのようなことできません」


「そうかもしれないわね。案内はいらないわ。忙しいでしょうから、行ってちょうだい」


「いえ、ご案内いたします」


「本当にいいのよ。ペルペトゥアが部屋の場所知っているから。さあ、行って」



 ためらいがちに執事長がうなずく。連れてきた兵士の案内だけ、使用人に頼む。


 ペペが部屋を知っているからとは言ったけど、だいたいどこにみんながいるかは見当がついている。三人で中央の階段をあがって、二階の一番大きな客室に向かう。螺鈿細工の扉に使用人が立っていて、わたしたちを見てそっと膝を折る。



「お疲れ様。カルロータも休んでいていいわ」


「では控えております。お食事はどうなさいますか?」


「そういえば食べてなかったわね。かばんごともらうわ」



 かばんを受け取って、室内に入る。寒い外を歩き回っていたせいか、暖炉の火が強いのか、少しむっとした空気だった。


 ソファや窓辺に座っていた妹たちが立ち上がって、膝を折る。わたしが一番最後だったらしい。深い赤色の壁紙と茶色の絨毯の客室で、黒いドレスを着た少女たちが集っているのは、なんとなく不吉な感じがした。金色の髪をまとめ、ウィンプルやネットにしまい込んでいるからかもしれない。化粧っ気のない顔が青白く、血の気が引いているからかもしれない。座って、と短く言ってから、いつもの自分の一人掛けのソファに向かう。


 ペペが外の使用人になにか言いつけてから、窓辺の安楽椅子に座る。出窓に腰かけていた、五の姫のララが大きな本を閉じて、ペペの足元に移動した。金の巻き毛をペペが嬉しそうに撫でている。ララはペペに任せたらいい。廊下側に並んだソファに座った、ヴィヴィとセニータに視線をやる。



「遅くなってごめんなさい。ヴィヴィ、セニータ」


「いいえ。コニお姉様、遠いところからお疲れさまでした」



 セニータが震える手でハンカチを取り出して目元を押さえる。ヴィヴィがそれをちらっと眺めながら、言葉を続ける。



「お寒かったでしょう。火は弱くありませんか?」


「いえ、大丈夫よ。ごめんなさい、なにも食べてなくて。失礼するわね。みんなはなにか食べた?」


「わたしとララは、一時間は前に到着したので。なにか温かいものを用意させましょうか」


「大丈夫よ。……セニータ?」



 かばんからサンドウィッチと水筒を出しながら、四の妹の顔をのぞきこむ。ふだんはたくさんの真珠で飾っている髪を布の中にしまい込んでいる。様式を重んじる彼女らしい、古めかしい服装だった。泣きはらしていたのだろう、顔がむくんでいた。小さな唇が震えている。



「おはようございます、一の姉上コンチェッタ様、」


「まああなた、こんな姉妹しかいないところでそんな挨拶するものじゃあないわ。ヴィヴィ、悪いけど、席を代わって」



 小さな顎を引いて、ヴィヴィがうなずく。セニータの横に座って、肩を抱き寄せる。ヴィヴィが火を強くしていたのはセニータのためかもしれないと思うくらい冷えた指先だ。わたしの膝の上に顔をうずめて、嗚咽をかみ殺している。ヴィヴィがため息まじりに震えている肩を撫でてやった。

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