続きです
尾け回して自宅に何日も帰っていなかった。その結果、洋服を着替えず、煤(すす)け
て垢で汚れた白のポロシャツを着ていたそうである。
警察署の事情聴取の時、ポロシャツに涙を落として、おいおいと泣き崩れた。
「好きで堪らなかった。どうにもならなかった」
将来は官僚か、法曹かと言われていた部長のなれの果てである。惨めな男。
部長の反省の度合いも強く、起訴され、懲役一年執行猶予三年となった。
しかし、大学にいられなくなった。追われるように三年生の時に大学を辞めて、仙台
にある実家に帰って行った。
当の桃香は部長が大学を辞めても、何食わぬ顔で部員たちに公言していた。
「馬鹿な男につきあって、無意味だった。肥やしにさえ、ならない男だった」
肥やしとは、うんこのような最低の肥料にもならないという意味で桃香は使っていた
ようだ。
私はHNCで、桃香はFGCに同時期に入社したが、その後、しばらく音沙汰がな
く、私としては桃香の存在は、すっかり忘れていた。
桃香が私の前に再び現れたのは、三年前、FGCの『エブリワイド』に就いた時であ
る。私のスーパーワイドと同じ時間で、同じワイドニュース番組である。
その時から私の運命が少しずつ狂い始めてきた。
十七時から十九時のスポット時間帯に放映されるスーパーワイドは、当時は視聴率が
十五%以上を常にキープをしていた。
視聴率の良さは、東京のキー放送局が放映する十九時以降のゴールデン・タイムの高
視聴率に、そのまま移行した。
要するに私のスーパーワイドは、視聴率を稼ぐのが難しいスポット時間帯の視聴率
と、ゴールデン・タイムの先駆け視聴率の両方を稼ぎ出していた。
スーパーワイドの構成は、十七時から十八時までの前半が、もっぱらクイズやら、歌
謡曲の街角リクエストなどを放送する。主婦たちがテレビを点けながら夕ご飯の支度
をするなど、比較的のんびりしたテンポで展開するように仕立てている。
後半の十八時から十九時までは、北海道のニュースなどをコメンテーター付きで、テ
ンポよく放送する。事件の重要度によって、視聴率が激しく乱高下する。
例えば殺人事件などが起こった場合は、十八%を超えるが、死亡事故に至らない交通
事故などは、十%に届かない。
ジャックナイフ・エフェクト ほいどん @hoidonn
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