(つづきです)

なぜ、こんな事態になったのか?                         

東堂(とうどう)桃香(ももか)だ。桃香。   

 

私の脳裏にライバルのテレビ局、FGC(藤グランドチャンネル)の桃香の顔が浮かんだ。

 

目が大きく、鼻や口元が整い、端正な顔をした女である。

しかし、端正な顔と裏腹に、体は淫乱で、ウエストはひどく細く、バストやヒップが大きい。

女の私から見ても、どこか性的な匂いを感じる。

 

桃香は私と大学時代の同期で、同じ放送部であった。

学生時代、私の周辺の女学生に人気があった男子学生は大体、桃香にゲットされている。 


ラグビー部のキャプテン、英語の同時通訳の勉強をしていた秀才、ボディビル部のミスター、放送局の部長など、つぎつぎと相手を替えていった。              


しかし、男たちは皆、最後は桃香にゴミのように捨てられていった。

放送局の部長に、どこが魅かれるのかと聞いたことがある。

桃香の時々見せる、潤んだ瞳に、人差し指を口元に持っていく仕草が堪らないらしい。              


うっとりとした目をしながら譫(うわ)言(ごと)のように語る部長の様子はまるで馬鹿だった。    


部長は法学部に在籍し、法学検定のアドバンスト(上級)試験を二年生でさっさと合格した秀才である。

教授から、大学にあるロースクールに進学するように勧められてもいた。 


しかし、部長は桃香に捨てられたあと、ストーカー行為を繰り返した。

桃香をつけ回して、自分のマンションに何日も帰らない状態が続いた。


夜は桃香のマンションの向かいにあるネットカフェに泊まり、朝、桃香がマンションから出てくるのを待っていた。

桃香が出てきた所を何度も復縁を望んだが、桃香は全く意に介さない。            


そのうちに、桃香恋しさから、妄想に取り憑かれるようになっていった。

「お前が忘れられない」などと書いた、憐れな手紙をマンションのポストに投函した。  


それでも、桃香が相手にしないので、妄想が段々と度を増していった。

最後には自分で買った黒い女物の下着を投函した。時には、自分の精液を付けた下着を投函した。    

危険を感じた桃香は警察に相談した。

 

桃香のマンションに夜間に忍び込もうとした時、張り込んでいた警察官に現行犯逮捕された。

マンションの共同の玄関は自動ドアで、オートロックが掛かる仕組みになっている。 

大学から帰った桃香が玄関を鍵で開けた。


それを見ていた部長は、玄関の前の茂みに隠れていた。


ドアが開いたところで、桃香と一緒にマンションに入った。         

一瞬、桃香が悲鳴を上げた。だが、警察官二人が、すでにマンションの内と外にいて、部長を取り押さえ、現行犯逮捕した。

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