第4話 放課後のカラオケ楽しい
帰りのホームルームが終わると、俺らはみんなでカラオケに行った。
団体客用の、数十人が入れるほどに広く、ミニステージにスタンドマイクまで用意されている、派手な部屋は目がチカチカするもなんだか気分が盛り上がった。
そこでフライドポテトや唐揚げにドリンクを頼み、みんなで流行りのヒットチャートを熱唱した。
とは言っても、俺は歌える曲が無いのでもっぱら聞き役だ。
「よっしゃ90点! みんなありがとう! そしてぇ!」
ノリの良い男子がみんなに手を振ってから、俺にマイクを向けてきた。
「そろそろお前も歌えよ主役ぅ!」
俺が笑顔で断った。
「はは、歌詞を覚えたら聞かせてやるよ」
「おいおいそんなんで楽しいのか?」
「楽しいよ。札幌じゃこんなの無かったからな。今日は連れてきてくれてありがとうな。お前はいい奴だ」
ノリの良い男子は照れ笑って、ステージに戻った。
そしてマイクをスタンドに挿し直す。
「では続けてオレの持ち歌ナンバーナインティーン!」
「いやアンタはいま歌ったでしょ!?」
「一人一曲ずつだろが!」
みんなか総ツッコミを受けて、男子は笑顔でステージから下りた。
俺は思わず吹き出してから、席を立った。
「ちょっとトイレ言ってくるよ」
「あ、うん」
心愛に断りを入れて、俺は部屋を出た。
◆
トイレから出ると、廊下には心愛が待っていた。
「あさとし」
俺と目が合うと、壁に預けていた背中を離して、ちょこんと寄り添ってくる。
「どうした心愛、なんか用か?」
「うん。ねぇ、楽しい? もしこういうの苦手だったら……」
ためらいがちな上目遣いと不器用なくちびるの動きに、俺は微笑を漏らした。
小学生時代の俺は、大勢でバカ騒ぎをするようなタイプではなかった。
それで、心配してくれようだ。
「相変わらず、心愛は優しいな。ありがとう」
幼馴染の気遣いを嬉しく思いながら、俺は彼女にお礼を言った。
「でも、大丈夫だよ。札幌でも市民への奉仕活動やイベントで、ある意味毎週大騒ぎだったからな」
「そうなんだ。よかった」
心愛は目元をゆるゆるさせて安堵の息を吐いた。
「でも俺は心愛が心配だな。そんなに他人の心配ばかりしていたら美容に悪いぞ」
「だ、誰も心配はしないよ、あさとしだからだもん……ぁ」
失言に気づいたように心愛は桜色のくちびるを固く結んで、頬を赤くした。
心愛は明るく元気だけど、変なところで恥ずかしがり屋だ。
「そっか、じゃあ心愛の幼馴染で俺は幸せだな。三年ぶりだけど、また仲良くしような」
俺が拳をかざすと、心愛は恥ずかしそうに、はにかんだ笑顔で小さなグーをくれた。
互いのグーがちょんと触れあうと、心愛は幸せそうに笑顔を深めた。
「つきしろこそ、よろしくね。三年の間にずいぶんと差をつけられちゃったけど、仲間外れにしちゃいやだよ?」
控えめに俺の制服の裾をつまんできて、心愛は甘えてきた。
「それはこっちの台詞だよ」
「え?」
意外そうな顔をする心愛に、俺は自嘲気味に笑った。
「教室でも言ったろ? 魔王軍が攻めてこない北海道に実戦は無い。俺が札幌の街で戦闘ポーズをしながらお茶を濁している間に、心愛はずっと東京を守るために魔王軍と戦い続けてきたんだ。お世辞じゃなくて、マジで尊敬しているんだぜ?」
俺が心からの賛辞を贈ると、何故か心愛の表情は曇った。
「ううん……つきしろは、すごくなんてないよ……だって……」
心愛が辛そうな表情で首の赤いチョーカーに触れた時、全身の皮膚が粟立つような、気持ちの悪い警報音が鳴った。
昼に聞いた、あの空襲警報だ。
「心愛、東京じゃ一日二回も空襲があるのか?」
「こんなこと滅多にないよ!」
心愛は気持ちのスイッチを切り替えたように、凛とした表情でスマホを取り出した。
「来て! つきしろたちのクラスはA区担当だよ!」
「わかった!」
首を回すと、団退室からみんなが次々飛び出してきた。
◆
俺らがカラオケショップから出ると、目の前の道路をアメリナたちが走り去っていった。
魔力で脚力を強化しているのだろう。
自動車並みの速度だった。
彼女の後ろを走る生徒の中には、あの取り巻きらしき女子の顔もあった。
全員、チョーカーをつけていない。
「おいアメリナ、俺らのクラスはそっちじゃないぞ!」
「あさとし、アメリナは……」
俺が声をかけると何故か心愛がきまずそうな声を上げた。
そして、アメリナが立ち止まった。
「悪いわねアサトシ。分隊長であるワタクシにはワンコたちと違って、現場の判断で独自に動く権限が与えられているのよ。あっちに上位種であるハイゴーレムが落下したらしいの。なら、ワタクシの出番よね? じゃ、急ぐからこれで」
勝ち誇った笑みを置き土産に、アメリナはまた走り出した。
「分隊長?」
「先生の指示がなくても動ける独立部隊だよ」
俺の疑問に、心愛が答えてくれた。
「つきしろたちは先生の指揮で動かないといけないから、合流ポイントに急ご」
エッチな現代魔法が世界を救う 思春期男女の桃色大戦 鏡銀鉢 @kagamiginpachi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。エッチな現代魔法が世界を救う 思春期男女の桃色大戦の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます