第4話 放課後のカラオケ楽しい

 帰りのホームルームが終わると、俺らはみんなでカラオケに行った。


 団体客用の、数十人が入れるほどに広く、ミニステージにスタンドマイクまで用意されている、派手な部屋は目がチカチカするもなんだか気分が盛り上がった。


 そこでフライドポテトや唐揚げにドリンクを頼み、みんなで流行りのヒットチャートを熱唱した。


 とは言っても、俺は歌える曲が無いのでもっぱら聞き役だ。


「よっしゃ90点! みんなありがとう! そしてぇ!」


 ノリの良い男子がみんなに手を振ってから、俺にマイクを向けてきた。


「そろそろお前も歌えよ主役ぅ!」


 俺が笑顔で断った。


「はは、歌詞を覚えたら聞かせてやるよ」

「おいおいそんなんで楽しいのか?」

「楽しいよ。札幌じゃこんなの無かったからな。今日は連れてきてくれてありがとうな。お前はいい奴だ」


 ノリの良い男子は照れ笑って、ステージに戻った。

そしてマイクをスタンドに挿し直す。


「では続けてオレの持ち歌ナンバーナインティーン!」

「いやアンタはいま歌ったでしょ!?」


「一人一曲ずつだろが!」


 みんなか総ツッコミを受けて、男子は笑顔でステージから下りた。

 俺は思わず吹き出してから、席を立った。


「ちょっとトイレ言ってくるよ」

「あ、うん」

心愛に断りを入れて、俺は部屋を出た。



 トイレから出ると、廊下には心愛が待っていた。


「あさとし」


 俺と目が合うと、壁に預けていた背中を離して、ちょこんと寄り添ってくる。


「どうした心愛、なんか用か?」

「うん。ねぇ、楽しい? もしこういうの苦手だったら……」


 ためらいがちな上目遣いと不器用なくちびるの動きに、俺は微笑を漏らした。

 小学生時代の俺は、大勢でバカ騒ぎをするようなタイプではなかった。

 それで、心配してくれようだ。


「相変わらず、心愛は優しいな。ありがとう」


 幼馴染の気遣いを嬉しく思いながら、俺は彼女にお礼を言った。


「でも、大丈夫だよ。札幌でも市民への奉仕活動やイベントで、ある意味毎週大騒ぎだったからな」


「そうなんだ。よかった」


 心愛は目元をゆるゆるさせて安堵の息を吐いた。


「でも俺は心愛が心配だな。そんなに他人の心配ばかりしていたら美容に悪いぞ」

「だ、誰も心配はしないよ、あさとしだからだもん……ぁ」


 失言に気づいたように心愛は桜色のくちびるを固く結んで、頬を赤くした。

 心愛は明るく元気だけど、変なところで恥ずかしがり屋だ。


「そっか、じゃあ心愛の幼馴染で俺は幸せだな。三年ぶりだけど、また仲良くしような」


 俺が拳をかざすと、心愛は恥ずかしそうに、はにかんだ笑顔で小さなグーをくれた。


 互いのグーがちょんと触れあうと、心愛は幸せそうに笑顔を深めた。


「つきしろこそ、よろしくね。三年の間にずいぶんと差をつけられちゃったけど、仲間外れにしちゃいやだよ?」


 控えめに俺の制服の裾をつまんできて、心愛は甘えてきた。


「それはこっちの台詞だよ」

「え?」


 意外そうな顔をする心愛に、俺は自嘲気味に笑った。


「教室でも言ったろ? 魔王軍が攻めてこない北海道に実戦は無い。俺が札幌の街で戦闘ポーズをしながらお茶を濁している間に、心愛はずっと東京を守るために魔王軍と戦い続けてきたんだ。お世辞じゃなくて、マジで尊敬しているんだぜ?」


 俺が心からの賛辞を贈ると、何故か心愛の表情は曇った。


「ううん……つきしろは、すごくなんてないよ……だって……」


 心愛が辛そうな表情で首の赤いチョーカーに触れた時、全身の皮膚が粟立つような、気持ちの悪い警報音が鳴った。


 昼に聞いた、あの空襲警報だ。


「心愛、東京じゃ一日二回も空襲があるのか?」

「こんなこと滅多にないよ!」


 心愛は気持ちのスイッチを切り替えたように、凛とした表情でスマホを取り出した。


「来て! つきしろたちのクラスはA区担当だよ!」

「わかった!」


 首を回すと、団退室からみんなが次々飛び出してきた。


   ◆


 俺らがカラオケショップから出ると、目の前の道路をアメリナたちが走り去っていった。


 魔力で脚力を強化しているのだろう。

 自動車並みの速度だった。


 彼女の後ろを走る生徒の中には、あの取り巻きらしき女子の顔もあった。

 全員、チョーカーをつけていない。


「おいアメリナ、俺らのクラスはそっちじゃないぞ!」

「あさとし、アメリナは……」


 俺が声をかけると何故か心愛がきまずそうな声を上げた。

 そして、アメリナが立ち止まった。


「悪いわねアサトシ。分隊長であるワタクシにはワンコたちと違って、現場の判断で独自に動く権限が与えられているのよ。あっちに上位種であるハイゴーレムが落下したらしいの。なら、ワタクシの出番よね? じゃ、急ぐからこれで」

 勝ち誇った笑みを置き土産に、アメリナはまた走り出した。

「分隊長?」

「先生の指示がなくても動ける独立部隊だよ」


 俺の疑問に、心愛が答えてくれた。


「つきしろたちは先生の指揮で動かないといけないから、合流ポイントに急ご」



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エッチな現代魔法が世界を救う 思春期男女の桃色大戦 鏡銀鉢 @kagamiginpachi

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