第3話 魔力回復方法は2つある!
午後の授業は、魔法戦術論だった。
加賀山先生はプロジェクターでスクリーンに資料を映しながら、熱弁を振るった。
「以上が最新の魔法戦術である! だが、最後にものを言うのは根性! 軍人魂である!」
自衛官同様、魔法官が軍人なのかは議論の分かれるところだが、指摘する生徒はいなかった。
「魔法の威力は【魔力】の量に比例する。より多くの魔力を消費するほど、魔法の威力は上がる。魔力は魔法の燃料だ!」
スクリーンに図を出しながら、加賀山先生は語気を強め、俺らを睨みまわしてくる。
「だが、エネルギーは有限である! 魔法を使うほど魔力は消耗し、自然と魔法の威力も落ちる! そこで大切なのはいかにして魔力を回復させるかだ!」
スクリーンには擬人化された兎と亀のキャラクターが登場。
二人が手の平から炎を出すと、頭上のゲージがみるみる減って、ゼロになった。
兎とか目は疲れた顔をして、肩で息をし始める。
「魔力を回復させる方法は二つ! 自然回復と、感情の昂ぶりによる強制回復だ!」
Vサインのように指を二本立てて、俺らに鋭く突き出してくる。
「才能のあるものは自然回復が早く、長く戦える。魔力が枯渇しても、少し休めばすぐ復帰できる」
肩で息をしていた兎のゲージはみるみる回復。
兎はシャキッと背筋を伸ばした。
一方で、亀のゲージは回復が遅くて、未だに肩で息をしている。
「だが、魔力とは精神エネルギー! 自然回復が遅くても、感情の昂ぶりで強制的に回復させることができる!」
亀が【根性】と書かれた鉢巻をして両目を真っ赤に燃やし始めた。
すると、ゲージが一気に回復する。
「断言しよう! 気合があれば才能差を覆すことも可能だ!」
加賀山先生が鼻息を荒くすると、スクリーンの亀が叫んだ。
「回復スピードは上げようと思って上げられるものではない! だが、気合とガッツと根性、熱き軍人魂に限界は無い! そして強制回復させた魔力は最大魔力を超えて貯めることができる。故に日頃から感情を昂らせ、回復に努めるのだ!」
スクリーンでは、兎のゲージは満タンになると止まる。
一方で、亀のゲージは枠をはみ出して伸び続け、二倍の長さになった。
これは札幌でも習ったことだ。
理論上、無限の心力があれば、魔法官は魔力に関係なく、一撃で山を砕き海を割れる。
「ただし、感情の揺さぶられ方は人それぞれだ。図書室には感動モノのコンテンツが充実しているので、放課後は図書室で涙を流すのも良いだろう。戦場で魔力が尽きた時の為に、思い出すだけで泣けるエピソードがある者も強いな! でなければ――」
最後まで言い切る前に、終業のチャイムが鳴った。
加賀山先生は鼻白むように舌打ちをした。
「なんだもう終わりか。ではこれまでとする」
不完全燃焼気味の態度で、加賀山先生はプロジェクターのスイッチを切ってから教室を出て行った。
すると、生徒たちは緊張の糸が切れたように息を吐いて、途端に騒ぎ出した。
「おわったぁ♪」
「放課後どこ行く?」
「空襲は昼に終わったし、今日はもうねぇだろ」
「大通りにできた喫茶店行こ♪」
「空襲でいつお店無くなるかわからないもんね」
「新オープンしたお店はすぐ行かないと♪」
みんながすっかり放課後モードで、俺は唖然とした。
そこへ、ふと心愛も近づいてくる。
「あさとし、久しぶりだし、一緒に遊ぼ♪」
両手を俺の机に置いて、前のめりになる心愛。
可愛い顔と豊かな胸が悩ましくて困る。
「え、いや、放課後って、遊んでいいのか?」
「へ? そりゃそうだよ。札幌は違うの?」
心愛は身を引いて、キョトンとした。
「ああ。札幌は実戦が無い分、市民にアピールしないといけないからな。放課後は基本、公開訓練や市内の奉仕活動だな」
「うそぉ!? そんなのひどいよぉ! 高校生は一生に一度しかないのにぃ!」
まるで自分のことのようにショックを受けて、心愛は悲しそうな顔を作ってくれた。
共感性が高いというか、苦労しそうな子だ。
でも、彼女のそんなところに、昔からよく助けられてきた。
辛いことがあっても、心愛が自分のことのように悲しんでくれると、なんだか元気が出てくる。
「おい聞いたか? 札幌校って放課後ないんだってよ」
男子の一人がみんなに呼びかける。
「かわいそー」
「そんなのマジ奴隷じゃん」
「よくそんな学校にいたね」
「コンプラ大丈夫?」
他の生徒たちも、男女問わず、俺の周りに集まってくる。
「いや、流石に夜は学生寮でクラスメイトと喋る時間くらいあるけど」
「休みの日は?」
「土日は隔週で奉仕活動や公開訓練だな。休みの時も外出時は制服着用が義務でカラオケとかゲーセンは禁止だったな」
「なんで!?」
「魔法官がバカ騒ぎしていると市民の目がな。税金泥棒とか言われたら困るし。実際に昔、ネットで【魔法官、税金で豪遊】【こんな奴に札幌が守れるのか】【有事に備えずバカ騒ぎ】とか書かれたらしいぞ」
「うわひっど……」
女子の一人が青ざめた。
そして、心愛が俺の肩を控えめに、ちょんとつまんだ。
「あさとし、今日はつきしろたちと遊ぼ。この三年で、東京も色々変わったんだよ」「よしみんな、放課後は東雲の歓迎会だ!」
ノリの良い男子がみんなに呼びかけて、みんなは賛同した。
あまり慣れない雰囲気だけど、みんなの歓迎が嬉しかった。
「アメリナは来るのか?」
俺が声をかけると、心愛たちの顔が固まった。
教室の角に座るアメリナは鼻で笑った。
「冗談はよしてくださる? このハリソングループ令嬢のワタクシに、凡民の盛り場へ行けと? 同じデュアルタイプのハイランカーとして注意しておきますけど、付き合う相手は考えたほうがいいですわよ。では、ワタクシはスケジュールがありますので」
高飛車に言うと立ち上がり、アメリナは優雅に教室の出口に向かった。
「では、帰りのホームルームは聞いておくように」
「はい、アメリナさん」
一人の女子が光栄そうに返事をした。
取り巻きとか舎弟、と言うものだろうか。
それと、その女子も首に【チョーカー】をつけていない。
――あの制服はつけるの自由なのか?
アメリナはセレブみたいなので、自身の好みではないファッションはしないだろうから、納得だ。
「まぁまぁみんな、空気を変えて! じゃあ街に行こうぜ♪」
ノリの良い男子を先頭に、みんなが教室から出ようとすると、ドアが開いた。
「ホームルームを忘れたか?」
鬼の形相で立つ加賀山先生に、みんなは悲鳴を上げて自分の席に戻った。
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