第2話 アメリカエースは金髪爆乳美少女

 昼過ぎ。

 東京魔法官学園に到着した俺は、二年二組の教室で自己紹介をしていた。


「北海道の札幌魔法官学園から来ました。東雲朝俊(しののめ・あさとし)二等魔法官です。よろしくお願いします」


 教卓の横からクラスメイトに視線を送りながら、俺はキビキビと敬礼をした。

 すると、みんな不思議そうな顔を向けてくる。


「敬礼?」

「軍隊みたい」

「何かのネタ?」


 何かおかしいのかと、俺は首をひねった。


「あれ? 東京って敬礼しないのか?」

「あさとし」


 一番前の席に座っている心愛が、口元にそえて囁いてくれた。


「東京じゃ敬礼は行事の時しかしないよ」

「そうなのか? 札幌じゃ挨拶は敬礼が基本だったらからつい。これからは気を付けるよ。ありがとな」


 俺がお礼を言うと、心愛はほんのりと頬を染めた。


「う、うん」

「ごほん」


 低い咳払いの後に、先生が俺に自己紹介の続きを促してきた。


「東雲、旧交を温めるのは後にしろ」

「すいません」


 いかにも厳格そうな、軍人然とした男性教師、加賀山善次郎(かがやま・ぜんじろう)中尉に謝って、俺は教室全体に伝えるように顔を上げた。


「北海道は魔王軍の侵攻が無いから実戦経験はさっき、東京駅でやりあったのが初めてです」


 教室の空気が少しゆるんで、何人かの生徒が含み笑いをした。


「あと魔法適性は火炎と土石で、得意技はハイフレアとハイラピス、それにハイクエイクです」


 心愛を含む全員の顔が驚愕に弾けた。

 誰もが目を剥いて、まばたきを忘れたように固まった。


「ハイランク……?」

「ふたつもち、デュアルタイプかよ……」

「嘘だろ? あの年で?」


 誰もが隣近所でこそこそと噂話をし合う。

 俺がハイフレアを使えるのが珍しいだろうか?


「あさとし、ほんとの本当にハイランク魔法使えるの? しかも、ふたつも……」


 目を点にしている心愛に、俺は頷いた。


「使えるけど、何かあるのか?」


 心愛は、ほぇぇ、と息を吐きながら、呆れていた。


「あのねあさとし、普通、学生が使えるのはフレアとかサンダーとかのコモンランクまでで、その上のハイランク魔法を使えるのは教室に一人いるかどうかなんだよ? まして、適性がふたつもあるなんて……」

「え? 札幌校にはどの教室にも4、5人いるぞ?」


 教室がどよめいた。


「マジで!?」

「強っ!? 北海道強っ!?」

「札幌校ってそんなにレベル高いのかよ!?」

「なんで札幌そんな強いんだよ!?」


 俺にとっては普通なので、あまり驚かれると対応に困ってしまう。


「え~っと、訓練が強めだからじゃないかな? うちは実戦が無い分、訓練を実戦レベルにして補っているって教官が言っていたし。危険すぎて東京じゃ認可が下りないらしいけど、こっちは素手でヒグマと戦ったりしないんだろ?」


「えっ!? あさとしそんなことしていたの!?」


 心愛が心配そうな声を上げた。


「市民へのアピールが必要だからな。税金泥棒じゃありませんよ、ちゃんと訓練していますよって。あとさっぽろ雪まつりで雪像を作ったり、流氷祭りの準備を手伝ったり、テロ対策で日●ハムファイタ●ズの護衛をしたり、よさこい祭りで踊ったり」

「それは魔法官の仕事なのかな……」


 心愛のまなざしに同情の念が映った。


「でもそんなに強いならこっちに来てくれればいいのに」

「だから俺が来たんじゃないのか?」


「え、こっちに戻って来るって、あさとし、おじさんの転勤が終わったんじゃないの? つきしろはてっきり……」


「父さんたちは札幌だぞ。俺は東京の人員不足補充のためにハイランク魔法使える奴を送ることになったからって、東京育ちの俺が選ばれたんだ」


「あ、そういう……」


 心愛が納得すると、教室が色めき立った。


「デュアルタイプのエルダーランカーなんて、アメリナだけかと思ったぜ」

「アメリナさんとどっちが強いかな?」

「火炎と土石でしょ? あっちは雷電と金属、戦ったら凄そう♪」


 ――アメリナ?


 欧米人風の名前を聞いて、俺の視線は最後尾の窓際席に座る金髪碧眼の少女に気が付いた。


 絶世に美貌には、まだ十代の少女らしい愛らしさがあって、相反する魅力が共存した奇跡の美少女だった。


 心愛が花なら、彼女は小さな宝石といったところか。

 その間も、みんなは噂話をやめない。


「いやいや、ゲーム的には雷は地面に吸収されるし、金属は炎に熔かされる、相性的には東雲くんじゃない?」


「東京で駅で初陣なのに一人でコモンゴーレム30体倒したって言うし、才能は東雲くんのが上だよね?」


「王者交代か?」


 俺は、目の前の席に座る心愛に尋ねた。


「なぁ、アメリナって――」

「ワタクシですわ!」


 俺の声を遮るように、金髪の少女が立ち上がった。

 席から立ち上がりよくわかるが、彼女はとても目立つ容姿をしていた。


 モデルのようにスラリと背が高く、腰の位置が高い。


 手は繊細で肩は華奢でウエストは細いけれど、胸は欧米人であることを差し引いてもなお大きい。


 スイカを二つ横に並べたような爆乳が、ブレザーを左右に分けていた。


「ワタクシはアメリナ・ハリソン。日米共同安全条約のもと、アメリカから交換留学生として来た、エース魔法官ですわ!」


 上から目線に大きな胸を張り、アメリナは威圧的な態度で続けた。


「魔法適性は雷電と金属、得意技はハイサンダーとハイダマスカス。デュアルタイプのハイランカーであることが自慢のようですけれど、すぐに井の中の蛙であることを思い知ることになるでしょうね。なんなら、このあとワタクシと一勝負しませんこと?」


 瞳を吊り上げてなお崩れない美貌で挑発してくるアメリナに、俺は言った。



「戦うまでもなくアメリナほうが強いだろ?」



「え?」

「アメリナは肩透かしを食らったように、まばたきをした。


 俺は苦笑を漏らして手を横に振った。


「だって俺は訓練ばっかで実戦経験のない素人だぜ? スペックは同じでも実力差は歴然だ。みんなだって、俺と違って去年一年間、魔王軍から東京を守ってきたんだろ?」


 アメリナから視線を外して、俺は教室のみんなに語り掛けた。


「ゴングと審判付きの試合なら俺だって負ける気はない。けど、何が起こるかわからない戦場のリアルを知るみんなのほうが、実力は上だ」


 俺の言葉に、教室のみんなは急に姿勢を良くしたり、まんざらでもない表情になった。


 続けて、俺は机と机の間を通り抜けて、アメリナに歩み寄った。


「だから頼るようで悪いけど、俺はアメリナに期待しているよ。東京の戦力強化のために派遣されたもの同士の先輩として、この学園のエースとしてな」


 俺は0円スマイルと一緒に手を差し出して握手を求めた。

 すると、アメリナは毒気を抜かれた表情を緩めて、上機嫌に笑った。


「ふん、どうやら身の程を弁えているようですわね。いいですわよ。同じデュアルタイプのハイランカーとして、貴方には力の使い方を教えてさしあげますわ」


 すっかり勝者気取りで、アメリナは俺の手を握ってきた。

 彼女と手をほどいて振り返ると、心愛が安堵の息を吐いていた。

 どうやら、俺の心配をしてくれたらしい。


 本当にいい子だと思う。

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