エッチな現代魔法が世界を救う 思春期男女の桃色大戦
鏡銀鉢
第1話 東京上空に浮かぶ空中要塞
「あれが天空要塞かぁ……」
某日の昼。
俺、東雲朝俊が東京駅から外に出ると、遥か彼方の空を望んだ。
四月でも寒い札幌とは違い、春の陽光に照らされた青い空には、巨大な要塞が制止していた。
下半分はドーム状で、その上に魔王城然とした建物がそびえている。
けれど、東京駅の敷地を行き交う人々は、誰一人として関心を払っていない。
これが日常、当たり前の光景なのだ。
「25年も経てば、そりゃ慣れるか……」
あれこそ、俺が生まれる前に突如として地球に現れ、人類支配を宣言した武装組織、魔王軍が持つ要塞の一つだ。
こんなことを思っては不謹慎だけれど、敵の要塞ながら、なかなかに荘厳で立派だと思う。
一言で言えば、絶景だ。
「よっと」
目に魔力――精神エネルギーの一種――を集中させて視力を強化。
空中要塞の細かいディテールを確認しようとする。
【警察官】【自衛官】に続く第三治安維持職員、【魔法官】である俺には、望遠鏡もスマホカメラの拡大機能もいらなかった。
すると、要塞上部から何か黒い影が大量に射出された。
そこへ、突如として胸の奥をなめられるような不快音、空襲警報が東京の街に響いた。
途端に、駅の敷地内を行き交う人々が血相を変えて走り出した。
みんな、我先にと東京駅の中へと駆け込んでいく。
「おぉう?」
俺はすぐに看板の裏に隠れて、人の流れをやり過ごした。
そうでなければ、駅構内に押し流されてしまっただろう。
「へぇ、これがナマの空襲警報ってやつか。初めて聞いたな」
今朝までいた北海道には魔王軍が攻めてこないので、空襲警報は訓練として学校の中に流されたものしか知らなかった。
「ん?」
人混みがまばらになり、多くの人々が東京駅の地下へ避難した頃、空から空気を切り裂くような落下音が聞こえてきた。
聞き方によっては、花火の打ち上げ音にも似ている。
けれど、落ちてきたのは花火なんて綺麗なものではない。
直径1メートルほどの黒い球体が東京中に降り注いでいる。
そのうちの一つが、東京駅の前を通る道路に落ちた。
耳をつんざく轟音を鳴らして、黒い球体はコンクリートを叩き割り、粉塵を巻き上げながら小さなクレーターを削岩した。
衝撃が肌を叩き、思わず小さく肩が跳ね上がってしまった。
「おぅ」
波が引くように残響音が鎮まり、巻き上がった粉塵が晴れていく。
クレーターの中央に埋まっていた黒い球体は、まるでアルマジロが体を開くように、いや、もっと言えば、子供用の変形アクションフィギュアよろしく、その姿を人型にトランスフォームさせていく。
カシャカシャというささやかな金属音を鳴らしながら、黒い球体は3秒とかからず、人型を完成させた。
日本方面軍、ゴーレム機甲軍団の歩兵、コモンゴーレムだ。授業で習った。
ゴーレムは逃げ遅れた人々に視線を向けた。
さっきの落下音と衝撃波で転び、地面に座り込んだまま動けなくなった女性へ、ゴーレムが駆けた。
若い女性は悲鳴を上げて、自身をかばうようにその場でうずくまった。
「適切な防御姿勢お疲れ様です♪」
俺はカカトから爆炎を噴き上げ加速。
ゴーレムに側面から殴り掛かった。
刹那、俺の拳から赤い炎が溢れる。手の平を開くと、爆発的に膨張する火球をゴーレムの脇腹に叩きこんだ。
「■■■■■■■■■■ッ!」
人間の声ではない。
鈍い駆動音と甲高い金属音の悲鳴をあげて、ゴーレムは3メートルも吹っ飛んだ。
その脇腹は赤く焼け熔けて、体が崩れていた。
ゴーレムは全身が屈強な鋼鉄でできた動く人形で、その体には自衛隊のアサルトライフルなんて効かない。
対戦車ライフルで、ようやく傷をつけられる程度だ。
だから25年前、1999年7月に現れた魔王軍に人類は追い詰められ、なすすべもなかった。
けれど今は違う。
人類は、魔王軍に対抗する技術を手に入れた。
それが精神エネルギー、魔力を操作して超自然現象を起こす技術、通称、【魔法】だ。
元来地球にはない、魔王率いる魔族が使う技術を研究、模倣したこの力で、人類は魔王軍からの侵攻を食い止めることに成功。
世界各地で、なんとか危ない均衡を保っている。
「■■ッ――」
ゴーレムが動かなくなったのを確認して、俺は手ごたえを確認した。
「なんだ、思ったよりチョロいな。お姉さん、歩けます?」
猫のように丸くなっていたお姉さんは、緊張した面持ちで顔を縦に振った。
「あ、ありがとう。貴方、魔法官よね? 私、助けてもらうのこれで三度目なの。感謝しているわ」
「そう言っていただけて光栄です。じゃ、本官は任務に戻りますので、お姉さんは駅に避難してください。みなさんと一緒にね」
学園から叩きこまれた台詞を口にすると、お姉さんはちょっと頬を染めてから駅へ走り出した。
その背中を見送った俺は振り返る。
すると、道路からは駅を目指す避難者と、それを追いかけるゴーレムの姿が映った。
「さてと、じゃあ訓練通り行きますか」
俺は両手に炎をたずさえて加速した。
◆
五分後。
駅の敷地内に侵入したゴーレムを一掃し終えると、新たな一団が駆けてきた。
避難民でもゴーレムでもない。
俺と同じ制服姿で、首に赤い【チョーカー】をした女子たちだ。
うち、一人は数年ぶりだけど、よく知っている顔だった。
「うそっ? 終わっている!?」
ゴーレムの残骸だらけの敷地に、彼女は目を丸くして驚いていた。
「おぅ、久しぶりだな心愛(ここあ)」
俺が軽く手を上げながら歩み寄ると、彼女の顔は驚きから笑顔に変わった。
「あさとし♪ もうついていたんだ♪」
俺を見るなり、小柄な女子は声をはずませてくれた。
ワンサイドアップにした赤毛の房を上下に揺らしながら、小動物のように、ぴょこぴょこと駆けてくる。
その姿はとても愛らしく、思わず笑顔になる。
そして髪と一緒に、彼女のたっぷりと肉付きの良い胸も、上下に跳ね回っていた。
「ッッ」
悪いとは思いつつ、どうしても目がいってしまい、罪悪感が芽生えた。
――心愛のやつ、3年の間に成長しすぎだろ。
女子は男子の視線に敏感だと聞く。
幼馴染との再会を汚さないよう、俺は視線を彼女の顔に合わせようとした。
が、次の瞬間、彼女の制服がはじけた。
より厳密にいえば、ブレザーの開襟部分をかき分けるようにして、彼女の豊満過ぎるふくらみが飛び出した。
白のワイシャツに包まれたそれはいわゆる乳袋、と呼んで差し支えないボリュームだった。
ブレザーの合わせ目が彼女のアンダーバストに食い込み、ドイツ民族衣装のディアンドルよろしく、彼女のボリュームを際立たせる効果を生み出した。
「ふゃっ!?」
心愛は恥ずかしそうに両腕で自身のおっぱいを抱き隠して、顔を真っ赤にした。
それから、誤魔化すように硬い愛想笑いを浮かべ、ちょこちょこと近づいてくる。
「あ、あは、あはは、ご、ごめんね、はしたないものを」
「あー、いや、気にしなくていい。視線を逸らせなかった俺が悪いし」
「ぁぅ……」
顔をサクランボのように赤くして、心愛は視線を逸らしながら顔を伏せてしまう。
肩も縮めて、まるで穴があったら入りたそうにしている。
――なんて可愛い生き物だろう。
我が幼馴染ながら、その魅力にイケナイ衝動が湧いてしまう。
それに、これ以上、彼女を恥ずかしがらせるのも悪い。
咳払いをして、俺のほうから話題を変えた。
「それにしても久しぶりだな。電話やメッセージのやり取りは何度もしていたけど、こうして会うのは三年ぶりか、月城心愛(つきしろ・ここあ)二等魔法官殿?」
右手で敬礼をしながら、俺はわざとらしい軍人口調で締めた。
すると、心愛は明るい笑顔でウィンクをしながら、敬礼を返してくれた。
「うん、東雲朝俊(しののめ・あさとし)二等魔法官殿も、お元気そうでなによりであります♪ なんてね♪」
心愛が元気になってくれて、俺も笑顔になる。
赤毛のショートカットにワンサイドアップ。そして小柄で恥ずかしがり屋だけど、明るく元気。
小学校の時から何も変わらない旧友の姿に、俺は癒された。
「にしても驚いたよ。心愛が魔法官だもんな。おじさんやおばさんは心配しなかったか?」
「そりゃしたよ。お父さんなんて猛反対だったよ。でも、うちの教室で魔法適性あるの、つきしろだけだったし。それに、魔法官になれば、いざというとき、お父さんとお母さんを守ってあげられるでしょ?」
小さな手で可愛いグーを作って肘を曲げ、心愛は迫力の欠片も無いマッスルポーズを作った。
可愛い。
「にしても、ニュースは見ているけど、毎日空襲警報のわりに、みんな引っ越さないのな」
周囲の残骸を見渡し、東京駅に避難する人たちを思い出す。
「みんな生活規範が東京にあるからね。80年前の戦時中だって、空襲があったけど、東京に人はいたでしょ?」
「それもそうか」
心愛の説明に納得した。
田舎に頼れる親戚がいる人はいいだろう。
でも、家も仕事も東京にある人が、働き口もないのに仕事を辞めて田舎に引っ越しても生活はできない。
戦時中は空襲のたび、防空壕に隠れてやり過ごしたと授業で習った。
今も、その延長なのだろう。
「だけど転校初日から大活躍ですごいね♪」
心愛は、尊敬のまなざしで俺を見上げてきた。
なんだか恥ずかしくて、俺は頭をかいた。
「北海道でも活躍していたの?」
「いや、北海道は実戦ないから戦ったのはこれが初めてだぞ?」
「え?」
心愛はきょとんとまばたきをした。
「地方の北海道には魔王軍来ないからな。もしものために魔法官は配備されているけど、毎日訓練ばかりだよ。実戦はこれが初めてだ」
俺が淡々と説明すると、心愛は大きな目を丸くして驚いた。
「うそ……あさとしってば、初陣でこんな、何十体倒したの? すごいよ♪ あさとしすごいよ♪」
心愛は大きな胸にちっちゃなグーを当て、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。
胸は成長したけど、まだまだ子供っぽい。
でも、そんなところが可愛かった。
「まぁ、実戦が無い分、訓練強めだったからな。でも、心愛に喜んでもらえて嬉しいよ」
と、昔のくせで、つい心愛の頭を手でなでた。
「ふゃっ!?」
途端に、心愛の顔が赤く固まった。
「おぅ悪い」
年頃の女の子に失礼だったと思い、すぐに手をひっこめた。
けど、心愛は俺の触れた部分に手を当て、もじもじとした。
「う、ううん、ちょっと昔を思い出しただけ。これからも、なでていいよ」
つぶらな瞳のうわめづかいには、なかなかたまらない威力があった。
俺の幼馴染が可愛すぎて辛い。
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