第15話 波間に残響

その日の晩、リル島では盛大に祝宴が開かれていた。

島の若き姫が兄と恋人の仇を討ったと言って、皆が本人以上に羽目を外している。ヴォルディオは今回もまた生き残ったというのに。主役のアッシュはといえば、早々に宴の空気に疲れて一人アルペの部屋に来ていた。


「ただいま、アルペ。私帰ってきたよ。私だけ、帰ってきちゃったよ」


まだ花瓶に挿されたままのチューリップに向かって話しかける。


「皆はリル島の勝利だって言うけれど、私はヴォルディオを倒せなかった。ごめんね、仇は討てなかった」


昨日と同じようにベッドに腰掛ける。


「私もね、この八年間は最高に楽しかった。幸せだったなあ。ねぇ、アルペは本当に自分勝手ね。私の気持ちは聞かないで置いていくなんて。私だって、とっくにアルペがいないと生きていけなくなってるのに」


言葉とは裏腹に、その声音は穏やかだ。

アッシュは立ち上がり、窓際の花瓶から黒いチューリップを取る変わりに勿忘草を挿す。机の上にはあの貝殻を二つ合わせて置いた。


「それじゃあ、そろそろ行くね」


長い銀の髪を翻して、振り返ることなく部屋から出ていった。




その後、アスターは宴会には戻って来なかった。彼女が居ないことに気付いたレオナルドが探すが、彼女の影はどこにもなかった。一艘の小舟がなくなっていることが分かったのは、それからしばらくしてからのことだった。

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勿忘の君に~Forget You Not, Forever And Ever~ 海揺霧惟 @hanarokushou-no-yoru

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