恐怖は地すべりのように
- ★★★ Excellent!!!
本作はホラー小説の醍醐味がたっぷり詰まった作品だ。
マンションの住民達の日常とその不穏さを描きつつ、じわじわと不気味だった序盤からうって変わって、一人目の犠牲者が出てからは怒涛の恐怖が待っている。
法の裁きを受けることの無かった悪が怪異によって裁かれる要素、襲いかかってくる異形のものから逃げ回るスリリングな展開、呪われた土地の因果を探り真相に辿り着く謎解き要素が絡み合い、特に後半は息を呑みつつ、つい一気に読んでしまう。
個性的な登場人物の活躍が上記の三要素を繋ぎ、物語を一層面白くする。
私が一番ウケた登場人物は金にがめつい占い師金村琴乃だが、特殊な力があるわけでもなく逃げ惑うしかない高校生の嶋津和奏が、ある怪異の犠牲者が嫌な人物だと知った後も悲惨な末路を悼むエピソードも好きだ。彼女と琴乃の会話を通じて、恐怖で罪を償わせるのは正しいことではないと語られるからこそ、本作における怪異の真相との決着の付け方があるのだろうと思う。