旅先からの挑戦状

「運転手さん、あなたには兄弟がいるかい?」



 おそらく、乗車中の気を紛らせるための質問に違いない。この口ぶりからするに、彼には兄弟がいるのだろう。私は「いいえ」と答える。



「そうか……。俺には妹がいるんだけど、これがまた変わり者でね」



「変わり者?」兄妹でケンカになるといった類の話ではなさそうだ。



「そうなんだよ。妹は旅行が好きで海外を飛び回っているんだ」



「なるほど。いい趣味ですね。でも、どこが変わり者なのでしょうか?」私には話の行きつく先が分からなかった。



「旅先から写真を送ってくるんだ。『ここはどこだと思う?』っていうショートメッセージと一緒に。当然、俺には分からない。だから、今回こそは当ててぎゃふんと言わせたいんだが、やっぱり分からないんだよ」男性の顔には悔しさが溢れていた。



「目的地に着いたら、写真を拝見してもよろしいでしょうか。私も謎解きに参加したくて」



 謎解きという言葉が大げさだと感じたのか、乗客は不思議そうな顔をしている。


**


 目的地に着くと、私は男性のスマホに表示された写真を観察する。しばらく見た後に私はこう言った。「オーストラリアだと思いますよ」と。



「オーストラリア? なんでそう言えるんだ? 出鱈目じゃない根拠を教えてくれよ」



 私がいきなり結論を言ったことで、彼は困惑しているようだった。



「まず、百葉箱に注目してください。この白い箱です」



「ああ、これね。そういえば、小学校にもあったな」乗客は懐かしそうな顔をしている。



「百葉箱ですが、各地の気温を比較するために基準があるんです。太陽光が当たると温度が正確でなくなるので、扉の向きが決まっています。これは南半球の向きです」



「なるほど。でも、どうやってオーストラリアと断定できるんだ?」



「基準はもう一つあります。百葉箱の高さです。これはオーストラリアのものです。そして、決め手はユーカリの葉です。どうですか?」



「よし、あなたの推理が正しいか妹に聞いてみるよ」



 そう言うと電話をかける。数回のコールの後に「あ、お兄ちゃん。どこにいるか分かった?」と女性の声が聞こえた。男性が「オーストラリアだろ」と言うと、「え、どうして分かったの!?」と驚きで声が大きくなった。数分後、乗客が電話を切ると「運転手さんは、名探偵だな」と褒めてくる。勢いで「推理が楽しみですから」と危うく言うところだった。



 副業が探偵であることは、私が知っているだけでいいのだ。そうでないと小さな悩みを抱えた人が、推理目的で乗車しようと指名してくるだろう。私はあくまでもタクシー運転手。乗客を目的地まで安全に送り届けるのが私の誇りなのだから。

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副業は探偵ですが何か?~タクシー運転手の推理記録~ 雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐 @AmemiyaTooru1993

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