第6話 さようなら、旦那様

「大丈夫か、エミリア」


 別棟から出ると、オリヴァーが私の手を取る。傍目はためからはエスコートをしているように見えるだろう。

 本当は私の肩を掴みたいのに、それができないからしている仕草だった。そう、私はまだオリヴァーに気持ちを伝えていないのだ。


「えぇ。むしろ、肩の荷が下りたような気分だわ」


 前世の記憶が戻っても、旦那様と会話をしたのが、たった二回だったけど。愛人が邸宅内にいるというのは、思った以上に負担だったらしい。


 紛らわすように仕事をしていたのにな。私もまだまだね。それとも、私の中のエミリアがそうしているのかしら。

 ならばちゃんと言わないと。


 憲兵に連行される、金髪の男に向かって私は言った。


「さようなら、カルム。もう二度と会わないことを祈るわ」


 初めて口にした旦那様の名前。だってもう、彼は旦那様ではなくなるのだから、いい加減、名前で呼んであげないとね。

 私の隣にいる、オリヴァーに申し訳ない。これからは、彼が私の旦那様だ。


「大丈夫。俺がそうしないから」

「ふふふっ。ありがとう。オリヴァー。いえ、旦那様」

「エミリア!」


 まだちゃんと好きだとは言えないけれど、それだけで喜んでくれるオリヴァーが可愛く見えた。



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転生先は悪妻~旦那様はお呼びじゃないの~ 有木珠乃 @Neighboring

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