第7話
「お前らこんなことされても、何にも言えへん人生歩みたいんか? 答えろおら!」
「いやだ!」
「これから死ぬ気でやるから許して!」
「人非人にだけはなりたくねえよ」
生徒たちの嘆き声が幾重にも重なって聞こえる。
「お前ら、俺はわかってんねんぞ。そんな嘆きだけやったらすぐに元に戻るだけやろ。お前らいつもそうや。テストで悪い点数取ったら一日だけ反省して、その後はすぐ元通りの生活や。そんなんやったらな、結局お前らの行きつく先はこれやぞ」
館林は内海を指差し、腹に蹴りを入れた。内海はまた嘔吐した。
「こんな蹴られても罪にもならへん。死んでも文句言えへんねんぞ、お前らそうなりたいんか」
再び生徒らの声が響いてくる。しかし今度は嘆きではなく、激しく罵倒するような響きだった。
「こんなデブで禿げた人非人には絶対にならねえぞ」
「俺は死ぬ気で勉強して、人格も磨く!」
「あたしはもっとたくさんの人に優しくする」
それは各々の決意表明だった。
「そうや! お前らその調子や。今お前らが叫んだ一言、すぐに毛筆で紙に書け、その紙は自分の部屋か毎日目にするところに貼っとけ。自分の座右の銘にしろっ。その言葉を裏切らへんような生き方をするんや」
館林の号令とともに数名のスタッフが入ってきて、筆と墨汁と紙を用意した。館林が生徒にはっぱをかけると我先にと生徒が書道の列に並んで、先ほど叫んだ言葉を書いていく。目が合った生徒一人は内海を見て「俺はこんなカスにはならねえ」と呟いて去っていった。
いつの間にか内海は涙を流していた。自分が行った愚かさを痛感していた。自分のストレス発散のためだけに誰かを誹謗中傷していたが、その人にとっては一生心に残る傷を与えていたのだ。
「内海様、そろそろ行きましょう」
いつのまにか沖元が隣に立っていて肩を回された。
「これは僕が反面教師の材料にされたということですか?」
「その一面もあります」沖元は続けて言った。「あなたは誹謗中傷したことで名誉棄損の有罪判決を受けましたね。でもそれだけでは簡単に人は変われるものではありません。館林は『目には目を、歯には歯を』という精神を重要視しています。なので生徒の教育と兼ねてあなたにも自分の行為を実感してほしかったのですよ」
「いや、もう十分すぎるほど自分が哀れなことをしたと思いました」
階段を手すりを伝って降りていく。その中で内海は一つの疑問が湧いた。
「もしかして、殺人を犯した人は、誰かに殺されるんですか?」
沖元は前を向いたまま笑みを浮かべている。
「殺人、その理由も千差万別です。恨みを晴らすため、正当防衛、快楽のため。ですが人非人になる方はたいてい自分勝手な理由で人を殺害しています。そういう方は耐え難い苦しみを与えられながら殺されますので、どうぞご安心ください」
「ご、ご安心くださいって……」
「つまり、この施設ではやみくもに人を殺す人間が存在しないということです」
内海は靴を履いて外に出た。まだ太陽は頭上に高く上っており、もう露わになった頭皮に直撃している。
「では内海さん、これから頑張っていきましょうね」
沖元は笑みを寄こした。笑うことを押し売りされているような気分になり、内海は笑顔が引きつった。
人権剥奪 佐々井 サイジ @sasaisaiji
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