第5話 中途半端な学歴、役に立たず

 冬が近くなり、ムラでは対策会議が開かれた。去年は食糧が不足してみんな飢えかけたので、今年は食料の蓄積と分配に気を配ろうということになったみたいだ。



 長老「ん~であるからして、今年は去年に比べて2倍の肉、魚、クッキー、干し柿などのドライフルーツを用意した。」


 「去年は、食糧を最初から配ると、ゴホンゴホン、食べつくす家があったり、後から獲ったものを独り占めしたりする者がいた。」


 「そこで、今年は、わしが自分の家の大倉庫で食糧をいったん管理し、必要な分と私が認めた分だけ、私が各家庭に1週間ごとに分配することにする。来年の弥生さんがつまで、ここにある石の入った籠で数えることにする。」


 そういうと、長老は、木の皮であんだ、平たい縁付きの籠(現代ではそれを箱という)を取り出した。籠は各家庭に合わせて区切りのある列があり、そこにそれぞれ石が何個か入っていた。


 しかし、そこで長老は顔をしかめた。


 「ただ、問題があって、わしは10以上を数えられない。だから全体で何がどれくらいあるかもわからないし、10個以上配らなければならない、特に木の実などは、困ってしまう。果たしてどうすればいいか。」そう言うと、長老はふぅーっと大きなため息をついた。


 ※解説:アマゾンの少数民族の中には、3や6以上の数を数えられない部族がいるという。また、古代日本でも漢語が入ってくるまでは11以上の数を数えられなかったのではないかという説がある(出典略:自分で調べてください)


 聞いているみんなはポカンとして、何も考えたくないようにしているか、何か言いたくても言えないような感じになっていた。


 俺も発言はしたくなかったのが、空気の重さに耐えかねて手を挙げることにした。


 ここは、俺がいくしかない。


 なぜなら、この村で10より上の数を数えられるのは、俺しかいないからだ。これも昔おばあちゃんが、土の板を使って教えてくれた。10より上の数は、11じゅういち12じゅうにと数えるらしい。


 ※解説:秋田県にある縄文のストーンサークル・大湯環状列石からは、穴の開いた土版が発掘されており、一説では、数を数える教育のために利用されていた可能性があると考えられている(大湯ストーンサークル館の掲示板を見た記憶(2020)より、ただそこに書かれていたのは確か6までだったような...気になる人は大学図書館で発掘報告書読むなり、現地に行って展示を見るなりしてください。)


 責任を負うのはいやだ。だけど、みんなのために頑張って、ここで認められるしかない。


 「ん、何だ、ユウよ。」


 「お、俺は、10以上の数を数えられます。だから、俺に食糧管理の仕事のお手伝いをさせてください!!」


 「ん、うむぅ。」


 すると、いろんなところから反対の声が相次いだ。


 「ユウは、盗んだり、ごまかして自分のものにしたりすることはないと思うけど、ユウに食糧を配られるって考えるだけでなんかムカつく。」


 「そうだそうだ、俺らが一生懸命とってきた肉をなんでユウに改めて配られなきゃならないんだ。」


 「めんどくさいことは、いやでがんす。」


 そんな声を聞いて、長老が何か決断したようだった。


 「みんな、静まれ、しずまれぇ。」


 シーンとする集落。






 「やっぱり、今までにみたいに適当にしよっか♬食糧も去年よりいっぱいとれたし、気にすることないよね。」


 「そうだ!!」「そうだ!!」「そうだ!!」


 こうして、会議は平穏無事に終わったのであった。俺一人だけもやもやしていた。


今日の縄文格言:【中途半端な学歴は役に立たない】


 


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採集系男子 海野陸人 @ka15kisei

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