第4話 地方一土器大会其の弐

 「休憩時間が終了しました。それでは、選手のお二人、それぞれの配置に着いてください。それでは、地方一土器大会決勝戦を始めます。制限時間は一刻いっとき(2時間)です。はい、よ~い、スタート。」


 審判からの宣告を受け、決勝戦が始まった。


 俺は、対戦相手の方をチラ見した。


  あ、男?


 長い髪でなで肩ではあるが、対戦相手はどうやら男のようだった。俺以外にも男性の参加者がいたとは!!ということは、さっきの観衆の 「え、あいつ男じゃね?」「そりゃあ、性別制限なかったと思うけど、男が出るもんかね。」という言葉は俺に向けて言われた言葉じゃなくて、対戦相手に向けて言われた言葉だったのかもしれないということか。


 だが、相手が誰であろうと関係ない。俺には秘策がある。これもばあちゃんから教わった技術だ。

 

 名付けて「巫女ヴィーナス


 そもそも、この大会はほぼルールなんてない。相手の邪魔をせずに、土で作れば何でもよい。だからさっきも顔料を持ち込んで絵を描いた。ということは、普通の煮炊き用の土器を作る必要もない。だから土偶フィギュアを作ってもいいのだ。これまでの出場者は誰もそれに気づかず、普通の煮炊き用の土器を作っていた。その時点で相手との差がつかなくなるというのに。


 俺は、粘土で女性の土偶フィギュアを作り始めた。ちなみにこの像のモデルはカヤだというのは秘密だ。まぁ誰にもバレることは無いと思うけど。そして、体の部分には、持ってきた木の串で渦巻状の細かい模様を入れた。これは自分でいうのもなんだが芸術点は高く入るのではないだろうか。


 「うわぁ、何だあいつ」「見たこともない土器の作り方をしているぞ!!」


 突然観衆の方から大きな声が上がった。ん、俺の方に向けられた歓声か?いや、対戦相手の方だ。


 ふと見ると、ヤツは、燃える火のような土器を作っている。そして、時折、土器を地面に転がしたり、へらで切りつけたりして複雑な形を作っていた。


 (く、これは負けた、すごすぎる...)


 俺は、試合中にも関わらず戦意を喪失した。


 「それでは、制限時間の一刻が過ぎました。選手は土器の制作を止めてください。これから最終審査に入ります。」


 審判団が俺たちの作った土器を見る。だが、勝負は明らかだった。


 男性審判1「東のムラのユウ選手は、この大会のレギュレーションが煮炊き用の土器にこだわっていないことに気づき、土偶フィギュアを作った。その発想はみごとじゃ。」


 女性審判1「形も女性美を大胆に表現していて、美しいざます。ですが、北北東のムラのサイト選手の作品のインパクトがすごすぎて。」


 女性審判2「これは、サイト選手の勝利でいいですかな。」


 男性審判2「第何回か目の地方一土器大会優勝者は、北北東のムラのサイト選手とする!!」


 「うわぁ!!」観客の歓声が今度は何か大きな棒で殴られたかのような衝撃を俺に与えた。


 そして、男性審判1がサイト選手に尋ねた。


 「サイト選手、優勝おめでとう。ところで授賞式にうつる前に聞いていいかね。」


 「ええ、いいですよ。」

 

 「君の作った土器は、たいへんインパクトのあるものだと誰もが思っただろう。君は最初から迷うことなくあの形を作りにいっていた。最初からアイディアとしてあったんじゃないかね。そのアイディアはどこから来たのか聞いていいかな。」


 「審判長がおっしゃる通り、最初から私はあの形をつくるつもりでした。あれの形の原型としたものは、私の母がシナノの国(現在の長野県)から嫁入り道具として持ってきたもので、幼いころ、遊んでいて地面から掘り出したものだそうです。私は、幼い時にその火焔型の土器を見てから、その形を真似して土器を作りたいと思い、試行錯誤してきたんです。」


 「なるほど、シナノ国の古い人々が作ったものだったんじゃな。でもそれを自分で作れるようにまでしたのは、ひとえにサイト選手の努力によるものであろう。お見事じゃった。」


 ※解説:火焔型土器は、縄文時代中期(5000年前から4000年前(諸説あり)頃に新潟県や長野県を中心に出土(日本遺産HPを参照,https://www.kaenheritage.com/doki/,2024-12-04閲覧)、ユウが作った遮光器土偶は、縄文時代晩期制作と言われているが、出土しているのは関東地方ではなく、青森県など(JOMONぐるぐるHP参照,https://jomon-japan.jp/kids/learn/map/kamegaoka/2024-12-04閲覧)なお、カヤは遮光器土偶みたいな見た目ではない。


 くそぅ、もう、こんなの運勝負じゃん。たまたまお母さんの持ってた昔の掘り出しものがめちゃくちゃすごい芸術品ってこんなのかなうわけない。ほんと、世の中たまにヤバイやつがポッとでてくるよな。


 結局、狩り何かから別の分野女性の仕事に逃げても、トップになれないのか...俺はネガティブな感情にとらわれた。


 表彰式が終わると、俺は、1人ひっそりと自分の村への帰路を急ごうとした。


 トン 突然肩を叩かれた。後ろを振り向くと、


 「あれ、カヤじゃん、なんでここに、カイは?」


 「今日は、カイ狩りに行ってるよ。ここに来たのは、前に遠征で行ったムラで友達になった子が出場するって聞いてわざわざ見に来たんだ。ほら、ユウと最初に戦ってたあの子。」


 あ、あの巨乳少女はカヤの友達だったのか。大人げなく勝ってしまってカヤに嫌われたんじゃないかと少し気になってきた。


 「でも、2戦ともすごかったよね。特に決勝の優勝者さんの土器もすごかったけど、

ユウの土器もすごかったよ。」


「いや、そんな別に。」


「あれってさぁ、女の人の土偶フィギュアだよね。あれって特定のモデルとかいる?」


 ギクッとした。


「いやっ、いません。」


 「そっかぁ、妄想であそこまで作れるならまじすごいと思う。」


 俺は、ここに来て、ほのかな期待を抱きはじめた。


 「え、この後カヤってどう帰るの?」


 「あ、今日はこのムラに泊ってくんだ。サーヤと久しぶりに会ったからいろいろと話そうと思って。ユウはこれから帰るの?」


 「うん、そうですね。」


 「さっきから時々敬語交じってんの、変だって(笑)、じゃあ帰り気をつけてね、バイバイ。」


 「バ、バイバイ。」


 その後、1里(3.9km)歩いたところで、俺は天を仰いだ。


「うわぁああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 なんだかよくわからない感情が心に渦巻いていた。


今日の縄文格言:【どの分野に逃げてもカルマからは逃げられない】


 

 



 


 

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