第3話 地方一土器大会其の壱


 「ねぇ、ユウ、今度西の大集落で土器作りの大会があるらしいわよ。参加してみない?」


 手持無沙汰な日々を過ごしていたある日のこと、俺は母ちゃんに土器作り大会への出場をすすめられた。


 「土器作り大会って何をするのさ。」


 「今朝、あんたが寝ている間に広場に集められて長老からお話を聞いたんだけど、このあたりの集落から土器作りに自信がある人が集まって、トーナメント戦で勝負するんだって。優勝者にはシカ肉1頭分と塩鮭が3匹も貰えるらしいよ。」


 「え~、人がたくさんいるところに行きたくないよ。それにそんなん勝てるわけないって。大体何人くらい集まるのさ。」


 「それが、今のところ6人くらいしかいないそうよ。それならユウでも勝てるんじゃない?ほら、この前作った花を押し込んで作った模様の土器、あれとか綺麗だったし、同じものを作れば優勝もねらえそうじゃない?」


 母ちゃんの口調から、無理やり俺に自信をつけさせようという気持ちがひしひしと伝わってくる。



 「ダメダメ、ユウになんか勝てっこないって。土器作りが上手い人なんてそこら中にゴロゴロいるもん。」


 突然、親父が会話に割り込んできた。まったくなんでいつもこんなに俺を全否定してくるんだ、この毒親父め。くそぅ、見返してぇなぁ。


 「母ちゃん、俺行くよ、土器大会!!」思わず声が出ていた。


   大会当日


 大会は、俺らが住んでいるムラから3里(11.7km)離れた集落で行われた。

集落には、建物が20個くらいあって、俺のムラには無いようなやぐらまで

あった。こんな近くに都会があったなんて気づかなかった。まぁ微妙に長い距離だし、気づかないもんかぁ。


 人見知りの俺は、できるだけ周りの人を見ないようにして、広場の中心にあったトーテムポールに目を合わせた。


 「えー、では、これから地方一土器大会を始めたいと思います。出場者のみなさんは広場中央に集まり、係の者の誘導に従って、最初の対戦者と向き合ってください。」


 あわてて、広場の中央に移動した。「え~東のムラのユウさんですね。こちらへ。」係の人の誘導に従って持ち場に着く。顔を上げて前を見ると、巨乳で頬に綺麗なグルグルのメイクをした美少女が座っていた。この人が最初の対戦相手か?


 「え、あいつ男じゃね?」「そりゃあ、性別制限なかったと思うけど、男が出るもんかね。」ふと観客のささやきが聞こえてきた。


 ああぁあああああああああああああ忘れてたぁ!!そうだ土器作りはほとんどが女性の仕事。ということは、土器大会の出場者も女性ばかりだということになる。なんで気づかなかったんだ。


 ここで負けたら女に負けたと言われちゃうし、逆に勝ったら大人げなく思われちゃうじゃないか。


 ともかく動揺をした俺だったが、気を取り直して勝負に向き合うことにした。


 「では、土器作りを始めてください。時間は一刻いっとき(2時間)です。それでは、よ~いスタート。」


 審判の声が響き、各選手が一斉に用意された粘土をこねりはじめた。


「くぅ~こんなイケてない男に負けないんだからぁ!!」


 対戦相手の巨乳少女が誹謗中傷をおこなってきた。

 これって反則行為じゃないのかよ、と思いつつも自分の作業に向き合う。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして一刻がたった。普通に過ごす時間としては長いが、土器の制作時間と考えると短い時間だ。それでも精一杯力を出したと思う。


 「・・・・・では、最後の組ですね。南南東のムラのユキ選手と東のムラのユウ選手の作品の品評を行いましょう。」


 審判団は各ムラから集まった老人男性2人と老人女性2人から構成されていた。

 審判団は、俺たちの土器をぐるぐる回りながら鑑賞しはじめた。


 男性審判1「ユキ選手の作品は形が整っている。縄目もきれいだ。だが、逆にいうとそれだけで面白みがない。それに対してユウ選手の作品はなんということだろう。表面に美しい絵が描いてある。これは狩りの絵だろうか。この発想は素晴らしい!!」


 女性審判1「絵を描いたというだけではなく、下から3分の1くらいのところで美しいカーブを描いていて、形だけとっても美しいといえるざます。」


 女性審判2「これは、ユウ選手の勝利でいいですかな。」


 男性審判2「この勝負、東のムラのユウ選手の勝利とする。」


 わぁー!!と周りの歓声が上がる。やった勝ったんだ。


 俺は、天を仰ぎ、亡きおばあちゃんにもありがとうを言った。土器に絵を描く技法は、土器作りの名人と言われたおばあちゃんから教わったものであり、俺はこれを実行するために顔料を会場に持ち込んでいた。


 「くぅうこれは負けを認めざるを得ないわ。私の分まで頑張ってね。」


 少女が握手を求めてきた。その手を握り返す。握手の後で、ひさしぶりに女子の手を触ったな、なんてキモいことを考えてしまった。すると、


 「うううわぁ!!」突然少女が泣き出した。やはり悔しさを抑えきれなかったようだ。


 「おい、あいつ女の子を泣かせやがったぜ。」「次負けたら許さねぇからな。絶対優勝しろよ。」


 観客からのヤジが聞こえる。ここまで来たら絶対に負けられない。あと1人倒せば優勝だ。


 「では、休憩を挟み、四半時しはんとき(30分)後に決勝戦を始めます。」審判の声が響いた。


 


 




 


 

 

 

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