第3話
あれから私は桜並高校のあった街を出て、とある地方都市で暮らしている。川瀬はというと、高校三年で別のクラスになってから話すこともなくなり、いまどこにいるのか、なにをしているかわからない。
私はときどき、二年三組で机を並べていたときのことを思い出す。そして胸を痛め、ときめかせていた。
「どこかで再会できたらいいのにな」
並木道を歩きながら呟き、クスリと笑った。たぶん川瀬は、私を見つけることはできないと思うから。
いま私は、「きらら」と名乗っている。
あのとき呼ばれた「きら」という名前と、川瀬の名前の響き、そして彼女に重ねた理想を借りて。
だからもう、あのころの「僕」はどこにもいない。
だからもう二度と、川瀬の「彼氏」になんてなれない。
それでも、後悔なんて欠片もなかった。
いまの私がいるのは二年三組の教室で過ごした、川瀬との休み時間があったからだ。そしてあの日聞いた「好きだったのかも」という言葉が静かに背中を押してくれた気がして。
斜めがけにしたバッグから小さな巾着を取り出し、「どれにしようかな」と中身を探る。ピタリと止めた指先にあったものを確認すると、バラの味のキャンディーだった。それを頬張った私は、口のなかでゆっくり溶かして甘さを味わった。
「だから、ありがとね。ななみ」
いつか、あの日言えなかった言葉を伝えられますように……と願いを込めて。
君色キャンディー 文月八千代 @yumeiro_candy
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