第4話 エンリー先生の授業

「じゃあまずは、魔族から教えようか」


(うん、なんか授業が始まりそう)


シンは席に座らされて、黒板の前に立つエンリー先生の授業を受けさせられかけている。否、受けることは確定である。


「まず、魔族っていうのはこことは次元が違う世界魔界ってところにいるの。で、その世界の王様が魔王で、領土を拡げたいからこっちの世界に攻めてきてるの。ここまでは、今までの人生で習ってきたね。」


「はい」


シンはとりあえず真剣な面持ちで聴くことにした。


「じゃあここからは普通の学校では習わない話。その魔王軍には、7つの軍を率いる魔人がいるの。名前まではまだ発覚していないんだけど、魔人からは、どうやら七大悪魔って呼ばれているそうなの」


「へぇー、そいつらの特徴とかってあるんですか」


シンは挙手をして発言し疑問をぶつける。


「んー、どうやら聖典に載っている大罪と同じみたいなのよね。」


「てことは、」


「そう。憤怒、暴食、色欲、怠惰、傲慢、嫉妬、そして、5年前に起こったワルプルギスで君が住むイギリスを襲った…強欲…」


そこまでいうとエンリー先生はシンの方へと向き直った。いうまでもないだろう。今のシンの顔は誰しもが容易に想像できる。


「こら、そんな怖い顔しないの。今は授業なんだから楽しく行きましょう」


「すいま、せん」


シンは唇をかみ怒りを抑えるのに必死といった表情だった。


(まぁ、こうなるのも仕方ないか)


エンリー先生は少なからずシンの事情を知っていた。知っていて尚こういう言い方をしたのだ。シンの覚悟を確認するために


「で、七大悪魔のうち、一体である怠惰はもう倒されてるの」


「え、誰にですか」


シンが驚きと怒りが混濁したような表情を浮かべて問いかける。


「シンくんも知ってる人よ」


シンは思考を巡らす。出会ってきた魔術師を片っ端から探し、出た結論は


「隼斗ですか」


「正解!」


エンリー先生は嬉しそうに答えた。シン自身も英雄と隼斗自身が言っていたことが決め手になったようだ。


「隼斗ってすごいやつだったんですね」


「すごいわよ。なんせ最年少ワールドボーダーなんだから」


エンリー先生は自慢の生徒よと鼻高々に話している。しかし、シンには一つの疑問が残った。


「すいません先生。ワールドボーダーってなんですか」


「あ、そうかワールドボーダーの説明もしないとね。」


忘れてたわと舌をぺろっと出している。


(とても30には見えないな)


シンはそんな申し訳ないことを思ってしまったと苦笑いをする。


「ワールドボーダーっていうのはね。いわゆる人類側の最高戦力。世界政府に認められた最強の10人の魔術師のことよ」


「隼斗がその1人ってことですか?」


食いつき良く聞いてくるシンの姿を見て、エンリー先生は笑みを漏らしてしまう。


「フフっ、まぁそういうことよ。じゃあ第一席から紹介していきましょうかね。」


そういうとエンリー先生は黒板に文字を書き始めた。


第一席 宵闇

第二席 皇帝

第三席 剣の隼斗

第四席 閃光

第五席 死神

第六席 雷公

第七席 不死鳥

第八席 刻神

第九席 零霊

第十席 世界


「あれ、名前は隼斗しかないんですか」


「それは会ってからのお楽しみでしょ。きっと驚くよシンくんは」


小悪魔的に笑うエンリー先生は本当に30かと思うほどであった。 


「というか、隼斗って本当に強いんですね」


「えぇ、見てきた中で唯一初めから戦闘のことで教えることはなかったわ」


エンリー先生は遠い目をしてそれでも嬉しそうにそう言った。


「じゃあとりあえず越えなきゃですね」


「えっ、」


エンリー先生は初めて余裕のない驚きの表情を見せた。


「何驚いてるんですか。越えなきゃ魔王には勝てないんでしょ。きっと」


エンリー先生は目を見開いた。そして、目から一粒の涙が頬をつたった。


「え、先生どうしたんですか」


「いや、ごめんね。ちょっとうれしくって。」


エンリー先生は涙を拭ってから一息ついた。そしてシンの方へと振り返って


「じゃあ今日の授業はここまで、明日からは私のクラスの授業に参加してもらうから」


「わかりました!」


「じゃあ寮に案内するからついてきてね」


教室をでて2人は歩き出した。そして、エンリー先生は少し上を見上げた。


(良かったね隼斗やっと新たに現れてくれたんだね)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者と英雄〜運命を担う者・宿命を背負う者〜 柑橘 蜜柑 @88100829

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ