第6話 回帰令嬢は幸せを掴む

 ノーモス辺境伯家に保護された私は、辺境伯夫妻にご挨拶をすると、夫妻は既に息子から私の事情を聞いていたらしい。


 もちろん、前世のことは聞いていないみたいだけど、私の境遇に深く同情してくれた。


 そんな辺境伯夫妻の計らいで、辺境伯家の親戚筋にあたるリットリオ伯爵家の養子に入った私は、アドルフ様の勧めで魔力検査を受けた。

 王国では貴族しか受けられない魔力検査は、帝国では5歳になれば誰でも受けられるようで、そこで私は治癒魔法の適正があることを知った。



「アカーシア、せっかくだから魔法の勉強だけじゃなくて、治癒師の資格も取ってみようよ!」

「ですが、元平民の私では治癒師はおろか、魔法の勉強なんて……」

「大丈夫だよ。王国とは違い、帝国は誰でも魔法の勉強も出来るし、頑張れば治癒師にもなれる」

「そ、そういうことでしたら……」



 そうして、帝国に来て5年後、15歳になった私は帝国の学園に入学し、魔法を始めとした様々なことを学びつつ、治癒師の資格取得に励んだ。


 前世では聖女様から何かと課題を押し付けられていたけど、今世では思う存分勉強が出来たし、念願だった友達もたくさん作れた。


 そして、学園に通い始めて3年の月日が経ち、18歳で学園を卒業した私は、そのまま辺境伯騎士団に新米治癒師として働き始めた。


 毎日大変だけど、周りの人達の温かさに助けられ……何より、アドルフ様が気にかけてくださるお陰で、とても充実していた。


 そんなある日、帝国に敵襲を知らせる鐘が響き渡り、建国時から国境を守っている辺境伯家の屋敷に騎士が飛び込んできた。



「報告! 王国兵が突如、森の奥から現れ、関所を襲撃してきました!」

「「っ!?」」



 ――王国が攻めてきた!? 前世ではそんなことは無かったはずなのに。


 前世では起きなかった出来事に困惑している私の隣で、険しい顔をしたアドルフ様が伝令役に問い質す。



「数は?」

「3000です」

「多いな」

「はい。現在、我が騎士団は王国兵に応戦しているのですが……どうもおかしいのです」

「おかしい?」

「はい。王国兵が全員、隷属の首輪をつけているのです」

「っ!」



 ――隷属の首輪。それってつまり……


 聖女様の嗜虐的な笑みが頭を過り、血の気が引くのを感じていると、小さく息を吐いたアドルフ様が辺境伯様に目を向けた。



「父上、私は殿下の側近として帝国騎士団と共に王国兵の鎮圧に向かいます」

「分かった。大方、国民全員を自分の奴隷にした聖女様が、遊び感覚で攻め行ってきたのだろう」

「っ!」



 ――聖女様が国民全員を奴隷にして、この国に攻め行ってきたというの?



「……せない」

「アカーシア?」



 前世で味わった屈辱を思い出し、きつく拳を握った私は俯いていた顔を上げた。



「絶対に許せない!!」



 珍しく声を荒げる私を見て、目を見開いたアドルフ様達は優しい笑みで力強く頷いた。


 その後、皇太子殿下指揮のもと、首輪のついた王国兵を帝国と辺境伯家の両騎士団が完全に鎮圧した。


 私も辺境伯騎士団の治癒師として、負傷している皆様の治癒を施した。


 そんな最中、前世と同じスタンピードが起き、帝国は攻め入った魔獣達を全滅させたが、王国は魔獣達によって滅国した。


 その直前、他国へ逃げようとしていた聖女様とその家族、王族達の皆様をアドルフ様と帝国騎士団が捕らえた。


 そして、周辺諸国の長達が集まった軍事裁判にかけられた結果、帝国に無断で攻め入ったこと、王国を見捨てて逃げたこと、聖女様に関しては複数の貴族令息達を誑かした罰として、全員斬首刑に処された。


 そして……



「アカーシア、前も言ったけど、僕は前世の時から君のことが好きだ。だから、今世では僕と一緒に幸せになってくれないか?」

「はい、アドルフ様!」



 辺境伯領の小さな丘の上で、アドルフ様からプロポーズを受け、前世で奴隷として扱われた私は、今世で大切な人と幸せを掴んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

回帰した奴隷令嬢は幸せを掴む 温故知新 @wenold-wisdomnew

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画