第5話 回帰の真相
村を離れ、国境近くの孤児院に駆け込んだ私は、お母さんの名前を出すと、院長やシスター達から温かく迎え入れられた
孤児院に住む子どもたちと賑やかだけど穏やかな日々を過ごして7年後、15歳になった私は出稼ぎのために隣国に渡った。
そこで、思わぬ再会を果たす。
「やっと見つけた」
「あな、たは……!」
平民向けの仕事紹介所を出た時に声をかけたのは、前世で学園に通っていた頃、よく話しかけてくれたアドルフ様だった。
突然の再会に驚く私を見て、心底嬉しそうな笑みを浮かべたアドルフ様は、私のところに駆け寄ると優しく抱き締めた。
「良かった! 生きていてくれて本当に良かった! 君があの村にいないと知った時、絶望しかなかったから!」
「ちょっ、離してくださいアドルフ様!」
――というより、どうして私のことを知っているの!? 前世ならともかく、今世では初対面でしょ!?
いきなり抱き締められて慌てふためいた私が思わず彼の名前を出すと、アドルフ様の目が大きく見開いた。
「まさか、記憶まであるなんて!」
すると、アドルフ様の背後に控えていた男の人の声が恐る恐る口を開いた。
「アドルフ様、この平民がもしかして……?」
「あぁ、この人が僕がずっと探していた人だ」
「えっ?」
――私を探していた?
困惑する私に、甘い笑みを浮かべたアドルフ様は、背後にいた男の人に馬車の手配を頼むと、優しく私の手を取った。
「驚かせてごめん。けれど、アカーシア嬢が生きていてくれて本当に嬉しかったんだ」
「どう、して? どうして私の名前を知っているのですか? それに、探されていたって……」
「それは屋敷に帰ってから話そう」
「屋敷?」
「そう、僕が住んでいる屋敷……そして、これから君が住む屋敷さ」
「はいっ!?」
今世でアドルフ様に再会した途端、私は彼が住むノーモス辺境伯家の屋敷におじゃますることになった。
◇◇◇◇◇
「まず確認だけど、君の前世があの淫乱聖女の侍女だったことは覚えている?」
「えっ、まぁ……そうですね」
彼に手を引かれて客間に入り、そのままアドルフ様と向かい合わせで座った私は小さく頷くと、再会した時から気になっていたことを口にする。
「ということは、アドルフ様もその……前世の記憶を持っていらっしゃるということでしょうか?」
「あぁ、そうだよ。というか、時間を戻したのはこの僕なんだ」
「ええっ!?」
――時を戻したのがアドルフ様!?
驚いて言葉を失う私に、神妙な面持ちのアドルフ様が事の経緯を話し始めた。
「学園卒業後、殿下とともに帝国に戻った僕は、殿下の護衛の仕事をしながら、君をこの地に呼び寄せる準備をしていた」
「私を、ですか?」
「あぁ、君はとても優しくて頭も良くて強いけど、あの女の言いなりになっていることが気に入らなくてね。どうしてもこの地に来てほしかったんだ」
「っ!……そこまで、考えてくださったのですね」
「うん、まぁ……ね。けれどそんな時、王国と帝国の間にある広大な森で大規模なスタンピードが起きたんだ」
「っ!」
『スタンピード』いう言葉が出た瞬間、脳裏に前世で聞いた耳を劈くような獣達の雄叫び声が蘇った。
――あれは、スタンピードだったのね。
「帝国騎士達と共に、僕は帝国に侵入した魔獣達を屠った。だが、王国は……王族や聖女とその家族たちが国を捨てて逃げたことで滅国したんだ」
「っ!!」
『チッ、こうなったら俺も逃げてやる!』
「それを聞いた僕は、殿下から君の居場所と王国に入る許可をもらい、君のいる離宮の地下牢獄に向かった。けれど、その時にはもう……」
悔しそうに顔を歪ませたアドルフ様は、組んだ両手を強く握った。
「君の亡骸を見て絶望した僕は、帝国で禁忌とされている魔法を使い、自分の命と引き換えに時間を戻した」
「それが、今世なのですね。ですが、どうしてそこまでして……」
――アドルフ様との接点は学園だけだったはず。それなのに、どうして……
眉を顰める私に、アドルフ様は再び甘い笑みを浮かべた。
「それはもちろん、大好きな君のことを諦めきれなかったからだよ」
「えっ?」
――アドルフ様が私のことを好き?
アドルフ様の言葉を理解した瞬間、急に心臓の鼓動がうるさくなり、頬に熱くなった。
「その様子だと、ようやく僕の気持ちに気づいたようだね。これでも、前世では僕なり猛アプローチしていたつもりだったんだけど」
「だ、だってそんなこと一言も……!」
「言ってなかったね」
アドルフ様の嬉しそうな笑顔に、見惚れてしまった私はその後、辺境伯家の客人として保護された。
一方、祖国では聖女様に国が乗っ取られ、前世で私を苦しめた首輪が国民全員につけられた。
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