第三怪:私、メリーさん。今、憩いの場が危機を迎えてるの。
メリー一向は臥伎陀芸術学校校内の雑木林にある古い建物に訪れていた。
「へぇ、大きい学校だと思ってたけど、森なんてあったんだ。」
「うん、元々は昭和期の小学校だったけど、その小学校が潰れて、大きな学校に建て替えたらしくて。今行く所はその小学校の名残である校舎なんだ。」
「ああ、初めは少し怖かったが、今は慣れ…あれ、人がいるな? しかも、大勢?」
その古い建物の出入り口から風紀の腕章を付けた生徒たちが冊子や中古の電化製品を運んでいた。
「ああ! それは私が買った備品です! 何で運ぶんですか!? やめて下さい!」
理夢は備品らしきものを運ぶ生徒たちを訴えようとする。
しかし、そんな彼女を遮るように黒い短髪と黒目を持ち、眼鏡を掛けた女子高生が立ちはだかった。
「穂宮理夢さんですね。誠に勝手ながら、備品はこちらで一旦、預からせて貰います。」
「貴方は
「この老朽化した建物は撤去する予定ですので、部を続けるのでしたら、何処か別の部室を選んで下さい。しかし、そもそも部員が貴方達、二人しかいないのは全くもって必要性を感じませんので、部そのものを解体し、別の部に行くことをお勧めします。」
冨上瀬名という風紀委員長が理夢たちを睨みながら、答えた。
その返答に対し、理夢は震えながらも、勇気を出して、言い返す。
「部費は全部、自費で支払っています! なので、学校の負担にはなっていません! それにここを撤去しないで下さい! ここには…ここには…ここにはあのトイレの花子さん発祥の地があるんです!」
トイレの花子さん。ある学校の校舎三階のトイレで、三番目の扉を三回ノックし、"花子さんいらっしゃいますか?"と言うと個室からかすかな声で"はい"と返事が返ってくる。そしてその扉を開けると、赤いスカートのおかっぱ頭の女の子がいてトイレに引きずりこまれる…という都市伝説である。
「ここはあの花子さんが初めて現れたって言う伝承をネットの有名なオカルト掲示板で見つけたんです! だから、芸術未経験な私でも熱心に独学で勉強してやっと受かったんです! だから、だから!」
「居ませんよ、その花子さんなんて。私も撤去する前、この校舎の三階のトイレを調べました。一応、三番目の扉を三回ノックしましたけど、現れませんでしたよ。」
「えっ…?」
瀬名の無慈悲な言い返しによって、理夢の身体は固まった。
「嘘です…! そんなこと…きっと、トイレの場所を間違えたんです!」
瞳が濁り、顔を蒼白させる理夢に対し、瀬名は呆れたように溜息を吐いた。
「貴方、オカルトが好きなんですってね。なら、私より先に調べていたはずですよね…」
「そっ、それは…私一人だと怖くて…」
「まさか、何も出ないのが怖いのですか? そうだとしたら、貴方は嘘つきですね。そんな妄言で撤去の邪魔しないで下さい。」
瀬名の心無い一言に理夢の心に憤りが火を付いた。
彼女は他の風紀委員たちを押し退け、古い校舎に入っていた。
「理夢!? 待て、落ち着け!」
潤の呼び掛け虚しく、理夢は階段を夢中で駆け抜け、三階のトイレに辿り着いた。
「嘘じゃない…嘘じゃない…花子さんはいるんだ…」
ぶつぶつと呟いた理夢の顔は暗く沈んでいた。
メリー・オカルティック・デイズ @kandoukei
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