第3話 車とあなたどんな物語がありますか?
「すみませんそれはちょっと…」
「あっごめんなさい、さすがにいきなりすぎでしたね」
「いやそうじゃなくて…人を乗せされるほど上手くないんですよ。今日もここに来るまでに何度事故を起こしそうになったか」
横に女の子を乗せてキャッキャウフフと走るのは憧れの夢ではあるが、今のこの運転で乗せたところでギャーとかキャーとかの悲鳴くらいしか聞こえてこないだろう。
「だから僕が上手く運転出来るようになるまで待っててくれませんか?」
「もちろん楽しみに待ってますね」
今この瞬間の彼女はこの快晴の空に負けないくらい輝いていて、雑誌の表紙を飾るほど美しく気品に満ち溢れている。
スラっと高い身長にモデル体が白いワンピースを引き立たせこれには男女共に視線引いてしまう。
「じゃあ連絡交換しておきましょうか」
「あ、そうですね」
もう最近は置物と化していた連絡アプリを立ち上げ、何年かぶりの追加ボタンをおす。
「私QR出しますね」
「了解です」
スマートフォンで読み取るとすぐに追加が終わった。
「これで私たちお友達ですね。これからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
うわー、こんな美人な人と友達になっちゃったよ!
人生何あるか分からないな。
ありがとうじいちゃん。それしか言う言葉が見つからない。
「それにしても今日は熱いですね」
ポケットから白いハンカチを取り出して汗を拭き取る。
「景色はいいですけど、この暑さはちょっとキツイっすね」
僕の服も汗が滲んで来てきたな。このままここで会話するのは流石につらいな。
「じゃあ良ければ私の車で少しご飯でも食べに行きましょうか?そろそろお昼も近いですし」
彼女は身ピンクの差し色の入った小さいアルミの腕時計を覗き込む。
「え、いいんですか?」
こんなに可愛い女の子とご飯出来るとか今日はなんてすばらしい日なのだろうか。
食べに行った先でお金を取られたりしないだろうか?いやもちろん食べた分は払うけども。
「いいも何も私が誘ってるんですよ?変った人ですね」
クスっと笑みをこぼす。
「それじゃあお願いします」
「じゃあとりあえず車のちゃいましょうか」
ポケットからキーを取り出してボタンを押し車の鍵を開ける。
「さあさあ乗っちゃって下さい」
「お邪魔します」
「はいどうぞ。お邪魔しちゃって下さい」
こんなことになるんならもうちょいいい恰好してくれ良かったな。
この車もドアが2つしかないし、座席の位置が結構低いな。
乗るのに苦戦していると慣れた調子でスッと座席に座る。
「お尻だけ入れちゃって、最後に足を入れると乗りやすいですよ」
「なるほど」
アドバイス通にやってみると先程よりもスッと体が入り席に体が収まる。
車内にはほのかに甘い香りが漂り、かわいいキャラクターのストラップが掛かっていたりして女性らしさを感じる。
僕が乗り終わるのを確認するとエンジンを掛けエアコンのスイッチを入れる。
汗でベタつい体にエアコンの風がすごく涼しい。
「エアコン最高ですね。窓開けて走るのも好きだけどここまで熱いと流石に開けたく無いかな」
「色んなメーターがついてるんですね、この車」
「それは私が後から付けたんですよ」
「へー。僕も付けた方が良いですかね?」
「普通に走る分には今のままでぜんぜん大丈夫だよ。ただ早く車で走ろうとすると必要になるかな」
「なるほど…」
うーん。早く走ろうとするとあれが必要なのか?昔に高速道路で少しスピード出してみたことはあるけど?
んー分からん。
「お昼何か食べたい物あります?」
「特に希望はないけど、出来れば食べやすいのが食べたいな」
「なるほど…」
軽く首を捻りうーんと考え唸っているとパッと目を見開き明るい顔を浮かべる。
豊かな表情がコロコロ変わってみていて面白いなこの人。
「そばなんてどうでしょう。ここからしばらく海沿いの道を進むと美味しいお店があるんです」
もちろん反対はない、この暑さで食欲の出ない日には持ってこいだろう。
むしろ他の人のおすすめのお店に行くのはなかなかどうしてか昔から好きだ。
「良いですねそば。熱い日には持ってこいだ」
「じゃあ行きましょうか」
足でクラッチを踏み込みスッとギアを入れ発進させる。
僕の時なんてあんなに時間をかけてあんなに衝撃が来たのにぜんぜん違な。
続く2速も衝撃なんてなくて、まるでオートマの車に乗っているみたいだ。
「運転上手ですね」
「別に上手では無いですよ。でも褒められるのはやっぱり嬉しいですね」
「僕がやると衝撃が来て前に後ろに車が揺れるんだ」
「始めはそんな物ですよ。私にもそんな時期はありましたし」
車は駐車場を抜け出し青空の下を気持ちよく駆け抜けて行く。
海沿いの景色の良さも相まって横に乗っているのはなかなか楽しい。
「オートマ乗りたいとかならないんですか?」
「結構なりますよ。渋滞とかハマると毎回思ってます」
「じゃあ何でわざわざマニュアルに?」
「それ以上に楽しいからかな」
徐々に上がるスピードに合わせて楽しそうにシフトを上げて行く。
「何だかさ車と一緒になってるっていうか…操っている感覚?それが運転を何倍にも楽しくしてくれるの」
「うーん。分かったよう分からないような…」
「慣れたきっと分かる日が来ますよ。人生と同じでいくらか大変なことの方が意外とやってみると面白いみたいな」
「確かにゲームでもわざわざハードモード選んじゃいますね」
「そんな感じです」
青空の下を車が曲がり道をスイスイとまるで生き物かのように駆け抜け行くのが何だか楽しい。
ああ、おじいちゃんの車に乗った時もこんな気持ちだった気がする。
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