第2話 受け継がれる想い
「ふぅー疲れた、これなら大人しく自転車で行った方がマシだったな」
運転で精神をすり減らしいつ事故ると冷や汗だらだらで少しやすみたい。
外に出ると日差しは相変わらず暑かったが、海風が涼しくて心地よかった、海に来たのなんていつだったろうか。
何となく吸い込まれるように浜辺を歩き始める。
青い海が日の反射を受けてキラキラと輝き、空を見上げれば絵に描いたような白い雲が浮かんでいて映画のワンシーンに迷い込んでしまったみたいだ。
僕はその作品の登場人みたいに一人で歩いた。
どこまでもどこまでも歩いて行けそうな気分だったけどキリがないので自販機でジュースを買い引き返していると一人の少女が歩いて来る。
「綺麗だなぁ」
小さな声で呟く。
日差しが青空と海を照らす美しい世界に少女は輝いている、麦わら帽子に白いワンピースを着た彼女はこちらに気がつくと、少し日焼けした顔に笑顔を浮かべ軽く会釈してすれ違った。
僕が俳優レベルのイケメンでコミ力があればここから、ひと夏の思い出が始まったかも知れないが冴えない無職とでは始まる物語も無いだろう。
始まったとしても僕がストーカーになって彼女が逃げ惑うB級ホラー映画が関の山なので軽く会釈を返しその場を後にした。
帰って来ると隣に赤いスポーツカーが止まっていた。
なんだか一時期CMでも見た気がするし、最近街中でもよく見るが名前まではわからないが特に車に興味もないのでエンジンを掛け、ギアをバックに入れる。
がギアがバックに入らない。
入れる場所を間違えたかと思い改めてギアの配置を見直すが確かに入れる場所は間違いじゃない。
「故障か?」
僕は機械関係の知識もさっぱりで車の知識なんてましてやである。
こんな時どこに電話すればいいかなんて分からないし、親にこの時間に電話して面倒を掛けるなんてなんて言われるか分かったもんじゃない。
何とかならないかとインターネットで解決方法を探して見るが、訳が分からなかったり出来なさそうな物ばかりでため息をつき車内から空を見上げていると、人影が映りで目を向けると隣に止めていた車の人が帰ってきたようだ。
これはチャンスだと思い、急いで車を出る。
スポーツカーに乗っている人なら少なくとも僕よりは車に詳しいし、だめでもともとだ。
「すみません、少しお時間いいですか」
「え、はい?」
車の主はさっきすれ違った少女で少し驚きキョトンとした顔で僕を見つめる。
「車がバックに入らなくて、どうすればいいか分からなくて」
「バックに入らないですか…、前から入りにくいとありました?」
「えっと、今日初めて乗った車で分からないんです」
「きょう納車とかですか?」
「そうゆう訳じゃなくて、その貰ったんですあの車」
「友達からとか?」
「祖父が亡くなって譲って貰って、今日初めて乗ったんです」
「そうだったんですね、じゃあ祖父も今頃天国で喜んでますね」
「喜んでますかね?」
「喜んでます、車が好きな人はみんなそうなんです」
少女は肩に掛かる髪を少し揺らしてクスリと笑う。
どうにもその感覚は分からないがそうゆう物なのか。
「ちょっと実際に触らせて貰っていいですか?」
「もちろん、助かります」
「ロードスターなんて乗るの初めて、小さくて可愛い」
「ロードスターって言うんですねこの車」
「もしかして全く車に興味ないですか?」
「お恥ずかしながら」
ごまかすように苦笑いを浮かべる僕に彼女は優しく笑う。
「趣味は人それぞれですから、ちょっと横に乗って貰っていいですか?」
「あ、じゃあ隣失礼します」
助手席に座ると狭い車内のためすぐ近くの触れられる距離まで近づくことになりなんだかドキドキする。
「結構近いですね…」
「楽しむ為の車ですからね、もしかして私汗臭かったりします?」
「いや、そんなことはないです!えっとてかむしろいい匂いとゆうか」
「そうですか、なら良かったかな」
赤くなった顔を隠すようにギアの方に顔を落として話題を変える。
「あとこの車壊れたりはしてませんよ、ギアの入れ方が特殊なんです。
見ててください」
ギアを切り替える棒を押し込み一速に入れると不思議なことに独特の電子音が鳴り、ギアがバクックに入ったことを知らせる。
「え?」
「初めは訳分からないですよね」
「まさかそうやって入れるなんて」
普通に入れると一速なのに押し込むとバックに入る、どうやったらこんなの事が出来るんだ?
「凄いですよね、同じ場所のはずなのに前にも後ろにも行けるなんて」
「どうゆう構造なのか全く想像付かないや」
「ホントにですよね、車ってどれも同じに見えるけどみんな違うんです」
「例えば知ってましたか?この車は屋根が開くんですよ」
「屋根が?」
少女がボタンを押すと音を立て眠っていた機会が動き出し、僕らを狭い空間に閉じ込めていた屋根をどこかに持って行きゆっくりと車内のに光が差し込む。
僕と世界を遮る物が何もなくなって、まるで僕が世界の一つになった気さえした。
「やっぱりオープンカーは最高です」
「おじいちゃんの昔乗ってた似たような車も屋根が開いたよ」
「じゃあNAとかNBとか乗ってのかもしれないですね」
「ごめんNAとかNBって何だ?」
ご機嫌に喜んで空を眺めていたが、いけないいけないと彼女は恥ずかしそうに笑う。
「分かりずらかったですね、この車のお父さんとかおじいちゃんみたいな?」
「なるほどな、そりゃなんか見覚えあると思ったよ」
祖父が運転して流れていく景色をこの助手席から眺め、僕の知らない世界に連れて行ってくれるのが大好きで、仕事が忙しい両親に変わり僕が飽きないようにこんな暑い夏の日も、雪が降って寒い日も僕が望みさえすれば祖父は喜んで車を出してくれた。
感傷に浸り助手席から景色を眺めていると少女は少し恥ずかしそうに言った。
「あの、少し私を助手席に乗せてドライブしてくれませんか?」
引きこもりオープンカーを貰い人生が変わる @Contract
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