引きこもりオープンカーを貰い人生が変わる
@Contract
第1話 追憶の日々を照らす日
僕は今でもこの日だけは鮮明に覚えている。
大体時刻は午後の1時くらいに日が昇りみんなが一生懸命に働いている中で僕はもそもそと布団からゆっくりとはい出ると、日差しが鬱陶しくていつも占めっ切っているカーテンから微かな光が漏れていた。
僕の一日はこうやって始まる。
暫くはパソコンでネットサーフィンかゲームをして、一階に両親がいないのを部屋から聞き耳を立てて確認してから飯を買いに行く。
ニートになりたての頃は両親も妹も友人も優しく接してくれ、ご飯も洗濯も全部やってくれて常に気に掛けてくれていたが今では飯は少ない貯金を切り崩し、一人孤独に過ごす日々だ。
今では合えば睨むようにして僕をみるし、妹に至っては会うたびに舌打ちや暴言を吐いてくるようになっていた。
まあ、されて当然の立場だけど。
一階に誰もいないのを確認し玄関を開けるととてつもない熱気と日差しが僕を襲い思わずすぐに扉を閉じる。
家はエアコンがついていて気が付かなっかが今日は猛暑日らしく、近くのコンビニまで行くのにも苦労しそうだ。
どうにか買いに行かなくても何とかならないかとあるはずもない解決策を探し、周囲を見渡すと見慣れない車のカギが靴箱の上に置いてあった。
両親は車を買い替えていないし妹は車を持っていなかったはずだが。
「ああ」
思い出した、これは僕父方の祖父が僕に残してくれた車だ。
つい1年ほど前であったか、祖父が死んだのは。
昔は良く遊びに行っていたが、高校生になってからは何かと用事があり行けないことが増え、気が付けば全然行かなくなって最後に生きている頃に会ったのはいつ頃だっただろう。
ニートになってから数年が経ったころ、祖父は眠るようにして亡くなっていたらしいが僕はそれを聞いて何にも思わなかったし、肩身が狭くて葬式や火葬にも行きたくないと思っている自分がいた。
ついには死んだ祖父の顔を見ても火葬を終えても悲しさを覚えることは無く、僕はなんて酷いやつなんだと自分で自分が悲しくなった。
僕は車の鍵を手に取る。
遺言書に僕のことについてはただ一文だけ。
「私の所有している車は直也に送ること」
車に興味のない家族は特になにも言わなかったし、その車もそこまでの価値があるものではないらしい。
出来ればお金が良かった、だなんて思いながら車のキーを受け取って家のガレージに向かう。
確か車は放置してそのままだったはずで、車は埃まみれでろくに手入れもしてないから乗れるかも分からない。
階段を降りてガレージへの扉を開けると今にも動き出しそうなほど綺麗な状態で黒い車はそこにあった。
後は僕がエンジンを掛けるだけだろうと直観的に思う。
車のキーを押すと2回軽やかな音を立ててドアが開いたことを知らせた。
「運転出来るかな」
近づいてドアを開けると車内も綺麗でホッとしたが、すぐに別の問題が生まれた。
「狭すぎるって」
車がそもそも小さいから仕方ないが、車内が凄く狭いし椅子も低い所にあるから乗り降りも大変だろうし後部座席もない、更にはこのご時世に不便この上ないマニュアル車だ。
確かおじいちゃんが昔乗ってた車もこんなんだったかな、狭いしうるさい車だったけど子供の頃はそれも楽しかったし、屋根が開いて綺麗な紅葉や星空が空いっぱいに見えた時は感動した。
思い出に浸りながら苦戦してシートに何とか座り、スタートボタンを押すが掛からずクラッチを踏んで下さいと表示され従うとキュルキュルと音を立てブォォォォと勢い良くエンジンが掛かかる。
ACのボタンを押すと無事お目当てのエアコンも作動した。
取り敢えず一安心しシャッターを上げて車を出そうとするがマニュアル車なんて教習所以来だ。
「えっとまずはクラッチとブレーキを踏んでギアを一速にっと」
カコっと音をたててギアが入る。
「そしてサイドブレーキを下げてアクセルを踏みながらゆっくりと繋げる」
繋がった瞬間ガコンと凄い音と衝撃をたてて体を揺らしエンジンが止まった。
懐かしい感覚、確かエンストだ。
ため息を吐きもう一度チャレンジすると車はゆっくりと動き始めた。
「マジか、マジで動いちゃってるよ」
エンジンが唸り始めた所でクラッチを踏んで2速に変速するとまたガコンと音を立て体に衝撃が伝わり車が揺れたが、エンジンが止まることも無かった。
左折して道に出てアクセルを踏む。
エンジンが徐々に音を大きくし回り回転数を上げていく。
三速、今度は衝撃が来なかった。
頭の中が運転の操作を思い出すことでいっぱいでなりカコッ、カコッと無心で変速し加速を続けていると赤信号が見えた。
やべえ、ブレーキどうやるんだ!?
徐々に近づいてくる車を前に必死になって思い出す。
えっとたしかこう!
クラッチとブレーキを思いっきり踏み込むとガクンと速度が落ちたが、一安心したのも束の間今度は信号が青になって今度は進まなくては行けない。
えっとえっと、次は次は!?
頭を悩まして奇声を一人上げながら車を上下に揺らし何とか真っ直ぐ進ませ続け、事故を起こさないようにと走り続ける。
気が付けばコンビニなど当の昔に過ぎ去り、海ぞいの道に出ていた。
途中に車を止めれる場所があるのでそこに頭から車を突っ込み肩を下す。
車内は涼しいはずなのに僕の体は冷や汗でダラダラだった。
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