第7話 蠢く夜
閑静な住宅街はシラを切るように静まり返っていた。世界から切り離されたような、凍てついた小さな公園に、ブランコの鳴き声と男どもの嘲笑が響く。
「脱げ。あの女みたくなりたくなかったら」
「ダメ。その子はまだ子供よ」
「関係ねーよ。じゃあ、オマエが代わり脱げよ」
(私は夜が嫌いだ)
自由で自分勝手、無慈悲で無秩序な夜が嫌いだ。
「つまらない」
男たちの嘲笑をかき消すように幼子は無粋に振る舞う。あどけなさを装いながら、近くの男の袖を引っ張る。
「脱ぐの?つ、ま、ら、ない。つまらない」
「はぁ?」
「つまらない」
「うっせ。黙ってみてろ」
マリンは唖然として幼子の光景を伺っていた。しかし、次の瞬間に驚愕する事となる。そして「ひゃっ!」という声にもならない声を漏らした。
「楽しい?痛いの、楽しい!」
地面に赤黒く染まる血溜まり。ぽたり、ポタリと垂れる男の体液が波紋を作り、アスファルトを染め上げていく。
幼子の背中から生える2本の触手が
触手の1本は男の体を貫き。もう片方は男の喉元を締め上げている。
「ふふふ。痛いの楽しいよね。ねぇ、痛いの。楽しいでしょ。もっと笑いなよ。もっと。ねぇ、もっと」
濃紺のワンピースを着た女の子は、もういない。ただ闇が蠢くだけ。寒い夜風が声のように聞こえる。だけ
「き、キサマ!ゆ、ゆ、ゆゆ、ゅうジに何をしやがった!!」
さらに幼子の背中から触手が生まれる。黒く艶やかな猫の尾のような触手。そして、喚く男を貫いた。
「痛い?気持ちいい。大丈夫、ちょっと痛いだけ、その後はすぐ気持ちよくなる。でしょ」
「ゆ、許してくれ。俺はオマエには何もしてなぇ。なぁ、ぅぐ、、あがッ、、、」
影は形づくる。あどけない女の子の容姿。濃紺のワンピース。薄く消えそうな青白い肌。そして、背中には無数の触手。
「誰もおにいちゃんが悪いとは言ってないの。自分を守るために相手を殺す。自分のために相手を侵す。無慈悲で無秩序、それでいて自由で自分勝手。それが夜というもの」
マリンと幼子の目があった。
「そうでしょ。おねえちゃん」
夜の帷で猫が鳴く ふぃふてぃ @about50percent
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