新・性善説

@123456rew

第1話

目的もなく途方もなく果てのない旅。僕と2人の友人AとBの3人の旅。僕たちは互いを支え合い、励まし合い進んだ。山を超え谷を超え。しかし平穏は長くは続かなかった。旅の途中Bが突然命を落とした。なんの前触れも無く突然、僕たちは呆気にとられその場を立ち尽くすしか無かった。しかし、歩みを止めることはBへの弔いにはならないと話し合い旅を続けた。


しかし、3人では乗り越えられていた旅が2人になった途端失敗続き互いに怪我をしたり、進路について言い争いになったり。そしてBが亡くなってから3日目の夜にAが提案をした「Bの代わりを見つけてくる」、僕は「代わり」と復唱するほかなかった。どれだけBに支えられていたのかBの代わりを連れてこれるものなら連れてきて欲しいものであるがそんなこと現実には起こりえない。Aも心身ともに疲弊しているのであろうと思い、そのまま床についた。明朝、なにやら人ならざるものの声が聞こえたので飛び起きたそこにはAとAの手を握った猿がいた。「Bの代わりを見つけた!」私は驚きと困惑の最中、猿の目を見た。どれくらい長く見つめたかも分からない木々の間を通る風の音が響く。どうやら悪い奴ではない様だ。そんな気がする。きっとBみたいに能天気なやつなのだろう。何かこの旅に変化が欲しかった僕はAが猿を連れて歩くことを許した。そして3人いや2人と1匹の旅が始まった。そして猿は以外にも僕たちに馴染んでいった。本質的な意思疎通は出来ないもののなにやらコミュニケーションを取ろうとする姿に僕たちは心を許し、時に僕たちを笑わせることもあった。また、危険から身を呈して助けてくれることもあった。しかしふつふつと何かが違うと感じていた。僕たちが共に旅をしたBは猿などでは無い。猿が人の代わりなど務まることがあるか、猿がなんだ。BはBだ。


しばらくした朝、猿が消えた。なんだかせいせいした。Bへの冒涜なのではと考えていた私にとっては少し肩の荷がおりた気がした。しかしAは違ったあのBが命を落とした時の顔と同じ顔をしていた。泣いていた。慟哭だった。「猿を探しに行く」と言ってまたAは歩き出した。私は仕方なくAについて行くことにした。その道中僕たちは犬を見つけた。「いた!」Aは犬に近づいた。犬はもちろん警戒してAに噛み付いたがなんのその笑顔でAは撫で続けた次第に犬も敵では無いと認識したのか噛むのをやめ地に伏した。「よし、こいつを連れていく」

Aはハツラツと言った。Bは?猿は?と疑問に思ったがAの嬉しそうな顔を見るとそんなことを言える訳が無い。


しかし数日後犬も消えた。「ここで待ってて」あの時の顔をしながらAが言った。その日は1人でキャンプをした。Aの事、Bの事を考えながら。Aは未だにBの死を受け入れきれていないのだと、そうに違いない。だからこそBの代わりだなんだと言って何かしらを連れてくるのであろう。また、犬を見つけきれずに朝になれば帰ってくるであろうと。


翌朝、麻紐に括られた小鳥を連れたAが起こしてくれた。「見つけた!」満面の笑みで言った。私は呆気にとられた。猿と犬はまだ地に足をつけて我々と共に歩んだが鳥はなにか違う気がする。もはやBの影はどこへやらと思う。猿、犬ときたら確かに鳥とも考えることはできるがなんなんだこの男は。この男が喜んでいる内は僕たちの間で喧騒は起こらないので固唾を飲んで連れていくことを許可した。


しかし鳥もいなくなった。そこから友人は魚、虫と連れてきた。だんだん僕にとっても理解できなくなってきた。最後に連れてきた虫はなんなんだ。見たことも無いキラキラの虫。しかしAはあの満面の笑みで連れてくることは無くなった。「これでいいのか」僕は尋ねた。僕たちはしばらく沈黙のまま歩いた。「わからない、でもBの代わりを見つけたいんだ。誰かが、何かが僕たちはの隙間を埋めてくれるはずだから」

僕はAが失ったものを埋めることに対して心が囚われていることに気がついた代わりを見つけることによって彼は自分の穴を埋めることが出来たのだ。


しかし、どれだけの生き物を連れてこようと彼の心の穴が埋まることは無いだろう彼がすべきことは穴を埋めることではなくその喪失を受け入れることである。


そして訳の分からないキラキラの虫を連れて歩いて少し経った頃「もう代わりだ何だといって連れ歩くのはやめよう、あいつの代わりなんていないのだから」Aは僕の目を見て言った。僕は突然のAの発言に頷くことしか出来なかった。そしてその瞬間A泣いた。僕も泣いた。彼を失った痛みが今になって響く。もう無理に埋める必要は無い。この感情を2人で受け入れることにした。


こうして僕たちは2人で旅を続けることにした。しかし以前の2人の旅とは違う、Bの記憶はもう痛みではなく穏やかに僕たちの心に残っている。


最後に残ったのは、ただの空虚ではなかった。僕たちの心には、Bの思い出が静かに流れていた。これこそ本当の意味での「代わり」だったのかもしれない。

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