鬼
母の言葉は 聴いていて とても心地良かった。
本も見ないで
本を見せないで
即興で
ただ、ボクのために
ボクのためだけに聞かせてくれた昔話。
♪
桃は流れて どんぶらこ
甘い桃なら こっちさ来い
苦い桃なら あっち行け
♪
独特のリズム
歌のような語り
聴いていて 内容は覚えてしまっても
そのフレーズが忘れられなくて、
あの どきどきとわくわくが 味わいたくて。楽しくて。
何回もねだった。
毎日 ねだった。
母は、苦笑しながらも 毎日
語って聞かせてくれた。
――おばあさんは、桃を 家へ 持って帰りました。
誰が 何を どうしたか。
――ももたろうは、鬼退治に 出掛けました。
誰が 何を どうしたか。
その繰り返し、短い文。
――「きびだんご ひとつ くださいな」
――「鬼ヶ島への鬼退治 仲間になるなら、あげましょう」
同じ
同じやりとり繰り返し、仲間がだんだん増えてくる。
――最後に鬼はやっつけられて、
――悪者は居なくなる世界。
――安心して暮らせるようになる。
ボクも安心して眠りにつく。
母がボクに語り聞かせてくれた物語……。
ナツメ球の明かりだけにして、
布団に潜って 聴くお話は
まるで
ボクのためだけに開かれる
ボクだけの「おやすみ映画館」だった……。
おやすみ映画館 結音(Yuine) @midsummer-violet
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