第40話 尾行

 ゴブリンキングの事件からしばらく経過した。


 Eランクになった僕は一人で魔物討伐の依頼を受けられるようになった。


 一人で魔物討伐の依頼を受けるのは、正直怖かった。


 特にあのゴブリンキングとの戦いの後は、ゴブリンと戦うことにビビっていた。


 まあでも人間って慣れる生き物で、いまは問題なく討伐依頼を受けられている。


 順調に依頼をこなしていく毎日だ。


 ついでに魔法の練習も続けている。


 魔法が僕の生命線だ。


 魔法を磨くことこそが最短でランク上げする方法だと思う。


「サラマン」


 手のひらからぼわっと小さな炎が出る。


 だいぶ練習したおかげで短詠唱はできるようになったけど、まだ使い物にならない。


 これではゴブリンすら倒せないし。


 もっと短詠唱に慣れていく必要がある。


 要練習だ。


 ローマは一日にして成らずっていうしね。


 魔法は一日にして極められずってね。


 自分が考えといてあれだけど、なんのひねりのない文章になった。


 まあいいや。


 最近気付いたことだけど、僕の中にある2つの魔核はそれぞれ性質が異なるようだ。


 片方は火系統の魔法と相性が良く、かつ、魔力量が日に日に増大。


 もう片方は水、土、火などいろんな系統との相性が良い代わりに魔力量は一定。


 で、僕は考えたんだけど、2つ存在する魔核ってそれぞれ僕の魔核とエソラの魔核なんじゃないかって。


 僕の魂がエソラの体に入ったことで、この体には2つの魂が存在し、同時に2つの魔核が存在する……というのが僕の仮説だ。


 なんとなくだけど、この仮説は間違ってないと思った。


 まあ仮説を検証する方法なんてないんだけどね。


 もし仮にこれが正しいなら、魔力が増えてるほうの魔核が僕のものだと思う。


 つまり僕の魔核は火属性と相性が良く、となると、僕が鍛えなきゃいけないのは火属性の魔法ということだ。


 僕は火魔法好きだから嬉しい。


 アニメや漫画、ラノベでも火を扱うキャラってかっこいいしね。


 そういうかっ・・いいキャラに僕はなりたい。


 まだまだ僕の魔核は魔力が増大してるようだし、このボーナスタイムにどんどん魔力量を増大させていきたい。


 ちなみに一度魔力を使い切ると、翌日とかに魔力量が増えてる現象があるんだけど、これには理由があるらしい。


 幼い魔核だとまだ形が定まっておらず、そんな状態で魔力を使い切ると魔核がさらに大きくしないといけないと判断して器が大きくなるんだって。


 ヤンキー聖女のクリスさんが教えてくれた。


 あの人、ああみえて幅広い知識を持っている。


 博識な人だなと思う。


 なんだかんだすごい人なんだな。


 魔力を使い切るのが一番魔核の成長にはいいけど、魔力を使い切ると危険な状態になるし、そこは調整するようにしている。


 別に使い切らなくても魔核は大きくなるしね。


 最近の僕は「魔核よ、大きくなあれ」と子どもを想う母のような気分で魔核を育てるようにしている。


 まあ僕は子どもいないし、そもそも男だから母親の気持ちなんてわからないけど。


 なんにせよ確実に僕の魔力量は増えている。


 魔法使いにとって魔力量は大きな武器になる。


 この調子で魔力量を増やし、魔法技術も高めていって強くなっていこうと思う。


◇ ◇ ◇


 今日、僕は久しぶりにコハクと二人でおでかけしていた。


 おでかけといってもパーティー組んで討伐依頼を受けようってことなんだけどね。


 僕一人で依頼受けるのでも良かったけど、パーティー組んだほうが効率的に依頼を消化できる。


 ちなみにダースは一人で討伐依頼受けてるようだ。


 というわけで僕はコハクと二人っきり。


 ここ最近、コハクが元気のないようにみえる。


 まあもともと元気のあるコハクなんて見たことなかったんだけどね。


「ねえ、コハク」


 僕はコハクの顔をみる。


 コハクは相変わらず無表情だ。


 何を考えてるかわからない。


「なんでしょうか?」


「いや……ううん、なんでもない」


「そうですか」


 コハクの顔はまるで彫刻のようだ。


 前世でもこんな綺麗な顔見たことがなかった。


 いや、テレビとかネットとかでは見たことあるんだけど。


 現実ではお目にかかったことがない。


 現実離れした美しさという言葉がよく似合う。


 でもそれはエルフという種族の特徴だ。


 この美しい外見という特徴のせいでエルフ狩りってのが行われるくらいだし、エルフからしたら迷惑なことだろう。


 エルフを所有してることがステータスになる。


 実際、ヤマルもそのためにコハクを買ったし、エソラも自尊心を満たすためにコハクを欲しがった。


 彼らの気持ちはわからないでもない。


 僕だって男だ。


 こんな綺麗な少女を従えていたら、少しだけ気分が良くなる。


 鼻が高いってやつだ。


 でも、いくら綺麗な顔の少女が一緒にいようとも、彼女の顔が晴れなければ僕の気分も落ち込んでくる。


 やっぱり、コハクの様子がおかしい。


 おそらくきっかけはゴブリンキングことだろう。


 あのときの恐怖を忘れられないとか?


 いや、きっとそうじゃない気がする。


 彼女は普通に魔物討伐の依頼を受けている。


 そこに恐れはないようにみえる。


 じゃあ何に悩んでいるのか?


 僕が彼女を手放さないと言ったことを気にしてるのか?


 それとも、彼女に関わると不幸になるって呪いのことを気にしてるのか?


 たぶん、後者だと思う。


 こういうときはやっぱりクリスさんに相談かな?


 だってあの人、元聖女だし。


 なんか彼女なら解決方法知ってる気がする。


 今度聞いておこう。


「御主人様」


 コハクが声を落としながら名前を呼んできた。


「なに?」


「おそらく、つけられています」


「え?」


 どういうこと?


 全然気づかなかったんだけど。


 ていうか僕、尾行されるようなことした?

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奴隷クラン 米津 @yonezu

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