偽札

口羽龍

偽札

 ここは都内のブティック店。ここの店主の守と妻の茜は、今日も店を開けていた。ここで売っているのはブランド品が多いが、リーズナブルなものもある。ショッピングセンターに比べて小さいものの、そこそこの人が来ていた。


 ある日、1人の男がやって来た。その男は小太りな中年で、サングラスをかけている。その男を見て、茜は笑みを浮かべた。いつもたくさん買ってくれる人だ。今日はどんなものを買っていくんだろう。その男を楽しみにしていた。


 男がレジにやって来た。買い物かごの中には、買ったものが入っている。今日も大量の服を購入したようだ。


「いらっしゃいませ」


 男は買い物かごを出した。その中には、買った服が入っている。


「お会計、お願いします」

「はーい!」


 茜は商品のバーコードを読み取り、別の買い物かごに入れていく。


「えーっと、3万5234円です」


 今日もかなり買っていった。その男は、どれだけお金を持っているんだろう。守はそう思っていた。この男はただ物じゃない。誰だろう。


 男は財布から4万円を出した。男は自信気な表情だ。


「どうも」

「4万円お預かりします」


 茜はレジを操作して、おつりを出した。男はその様子をじっと見ている。どこか怪しい表情だ。本当に会計してくれるのか、心配そうだ。どうしてここまで気にするんだろうか?


「4766円のおつりです。ありがとうございます」


 男はおつりを財布に入れた。守は怪しそうに男を見ている。だが、茜はまったく気にしていない。


「ありがとうございました」


 男は店を出て行った。2人は後姿を見ている。それを見て、茜は何かを感じている。


「あの人、けっこう買っていくね」

「うん」


 茜はその男がおかしいと思っていた。こんなに大量に買うなんて、明らかに怪しい。その男は、何か秘密を持っているのでは。


「でも、何となく怪しいと思わない。こんなに買っていくなんて」

「いいじゃないか! おかげでうちは大儲けだし」


 守は大量に買っていくのがいい事だと思っていた。おかげで店は大繁盛で。受け入れないと。


「そ、そうだね」


 茜は嬉しい話を受け入れていたが、やはり怪しいと思っている。本当にこの人はいい人なんだろうか? 犯罪者ではないだろうか? 強盗犯ではないだろうか?


「やっぱり怪しいな」


 と、守が肩を叩いた。もう言わないでおこう。こんなに大きな利益を与えらえているのに、どうしてそんな事を言っているんだろう。


「もう言わないようにしようよ」

「うーん・・・」


 だが、茜はあきらめない。その男が悪だと証明したい。そして、警察に通報したい。明らかにこの男が怪しいから。


 茜は1万円札を見つめていた。どう見ても普通のようだ。だが、どこかに違うものがあるはずだ。


「どうしたんだい?」

「このお札、怪しいな」


 守は不思議そうに見ている。こんなにもお札が怪しいんだろうか? どう見ても普通のお札だけど。


「本当に? どう見ても普通だぞ」

「調べてみようよ。こんなに買うの、おかしいでしょ?」


 確かにそうだ。理由があってこんなに買うのはわかっている。だが、こんなに買うのはどうしてだろう。家族がそんなにいるんだろうか?


「もう言わないようにしようよ」

「・・・、わかった・・・」


 結局、明日までにそれを調べる事にした。だが、守は思っていた。あいつが悪いと思っていない。




 その夜、茜は悩んでいた。この1万円札、絶対に何かがあるはずだ。今夜でそれを突き止めてやる! 守から何を言われてもかまわない。絶対に真相を突き止めてやる。


「うーん・・・、このお札か・・・」


 と、茜はあるものに気が付いた。なんと、高精細すき入れに木の葉模様の透かしがあるのだ。普通、そこには渋沢栄一が出るはずなのに。


「あれっ、これ!」


 その声に反応して、守がやって来た。何かを発見したんだろうか?


「どうしたんだい?」

「これ、これ!」


 茜は透かしを指さした。するとそこには、木の葉模様の透かしがある。渋沢栄一でなければならないのに。


「違う!」


 その時守は、茜の言っていた事が正しいとわかった。今まで気づかなかった自分を責めた。


「これは通報しないと!」

「そうね」


 明日、この男がやって来た時に、突き止めないと。




 翌日の昼下がり、またもやあの男がやって来た。昨日と同じ服装だ。2人は緊張している。今日、この男を追求しなければ。そして、警察に通報しなければ。


「いらっしゃいませ」


 茜を男が来たのを確認すると、守に報告した。


「来たわよ・・・」


 だが、男は茜の表情が気になった。何かを知ったような顔をしている。偽造したってのがばれるかもしれない。どうしよう。


「どうしたんですか?」

「い、いや・・・、何でもないです・・・」


 男は笑みを浮かべている。だが、どこか不気味だ。何かを知っているかのようだ。やはり怪しい。


 男は今日も大量に買って、会計に向かった。


「こちらをお願いします」


 茜はいつものようにバーコードを読み取り、会計をしていく。


「3万4234円です」

「4万円で」


 男は4万円を出した。茜は1万円札を見た。やはり木の葉模様の透かしがある。偽札だ。


「お客さん、これ、偽札じゃないですか?」

「いや、そんな事ないですよ」


 だが、男は違うと否定する。本当に偽札なのに。2人は怪しい目で見ている。茜は透かし模様を見せた。明らかにここがおかしいだろう。


「何ですかこの模様は!」

「こ、これは・・・」


 男は戸惑っている。ばれてしまった。どうしよう。早く逃げないと。


「正直に答えてください!」

「くそっ・・・、ポン!」


 突然、男は煙に包まれた。すると、そこには男がいない。いるのは、木の葉をかぶったタヌキだ。まさか、タヌキだったとは。


 と、茜は持っているものに違和感を覚え、手を見た。そこには葉っぱがある。まさか、その1万円札は葉っぱだったとは。


「あれっ!? 葉っぱ?」

「あっ、こいつ!」


 タヌキは物を買わずに出て行った。守は店を出て追いかけようとしたが、そのタヌキを見つける事ができなかった。

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偽札 口羽龍 @ryo_kuchiba

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