次は俺が奢ってやるよ

白川津 中々

◾️

「飯食いに行こうぜ」


昼休みに訪れた突然の誘いに俺は思わず「え」と口から漏れてしまった。


「飯だよ。まだ食ってないだろ」


「あぁ、はい。でも珍しいですね、勝山さんが僕誘うなんて」


「たまにはな」


愛想笑いを返す。まさか「嫌です」とも言えない。

勝山さんは俺より三年早く入社している。仕事ができるかどうかでいえば普通だ。言われた通りの業務はできるレベル。ただし上司部下同僚含めて軽視されていて、俺もその内の一人である。彼は自身を大変偉大な存在であると信じて疑っておらず、他者の認識と差が生じていた。当たり前。平凡。普通の人。それが勝山さんのアイデンティティでなければならないのにそうではない、中高生のような万能感を彼は抱えているのである。


「何食べたい」


「なんでもいいっすよ」


「じゃ、そこの定食屋で」


「承知です」


席を立つと肩をバンバンと叩かれた。え、なにぃ?


「最近どう」


「普通ですね」


道中の会話が既にだるい。さっきの肩バンは本当になんだったんだ。


「なんか、中井さん引き継ぎもなしに辞めちゃったじゃん。次の課長、誰になるんだろうな」


「さぁ……読めないですね」


残念ながらあんたじゃない。そして誰がなるのかも知っている。俺だ、俺が課長になるのだ。先日呼び出されて内定している事を伝えられた。すまんな。


「勤務年数とか経験でいうと、俺になりそうじゃん。やだなぁ、面倒臭いし、引継ぎもないわけだし、完全に損じゃん」


「そうかもですね」


その、自分は興味ないですよ。みたいな態度やめろや。透けて見えてんだよ昇進したいって気持ちがよ。


「仮に俺がなったら、まず社内ルールから変えていくけどね。今の非効率、非合理的なやり方はよくない」


「なるほど」


やりたくないんじゃないのかよ。だいたい紆余曲折あって今のルールができあがったんだよ。つまり非効率、非合理的でも必要って事。根本解決できないなら変更しても問題発生して元に戻る流れになるぞ。分かれよそれくらい。


「お前、俺が上司になったら、どうよ」


「そうですねー……いいんじゃないですかね。(最低限の)仕事はできるし」


やっぱり課長になりたいんじゃねぇかよ。

まぁでも、事務仕事は問題ないんだよなぁ。それで満足して、自分の領分に収まっとけばいいいのになんでそんな自己を肥大化させるかなぁ。


……この後、ご飯食べながら話を聞くのか。

嫌だなぁ……でもまぁ、すぐに部下になるし、これくらいは付き合ってやるか。


「だいたい今のこの会社は……」


昼下がり、勝山さんの話しは途切れることがなかった。どうぞ今のうちに先輩風を吹かせておいてほしい。なにせ、来月には俺に対し敬語を使わなければならないのだから。


「奢るぜ」


「あざまーす」


次は俺が奢ってやるよ、勝山くん。

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