◆19
こうして、旅の途中に色々とあったが……一応無事に、目的地に辿り着いた。
酒を飲まされたり、令嬢に夜這いされそうになったり。色々あったが何事もなく辿り着けたんだ。一安心だな。
「……デカいな」
「公爵様?」
「……いや、何でもない」
皇城ほどではないが、異世界物の小説やマンガで出てきそうな城の建物だ。勿論ダンテ本人は気に入ってなかったようで、この領地に帰ってくる事はなく、ずっと首都にいた。
そのせいか、だいぶ久しぶりに領地を通るこの目立ちすぎな馬車を、領民達は目が飛び出しそうなくらいに驚愕していた。そこまで驚く事か? と思いつつ窓から顔は出さなかった。大変な事になるからな。早く首都に帰るためにも、面倒事は極力避けよう。
そして、俺が領地に帰ってくると伝達していた為屋敷からお出迎えに出てきて列を作った使用人達。馬車から俺が出てきた瞬間、絶句し呆然とこちらに視線を向けていた。おかえりなさいませ、という言葉が頭から飛び出てしまうくらい衝撃的だったらしい。
確かに、首都でも俺がブルフォード公爵だと見抜けなかった者達が多数いたからな。仕方ないか。
「久しぶりだな、元気だったか」
「……え、あ、はい、元気、でした……」
つい、その答えに笑ってしまった。言わずもがな、殺人事件が起こっり失神で倒れるメイド達が多数出てしまった。やってしまったと後悔はしたが、近くにいた使用人達によって屋敷の中に運ばれて行ったから大丈夫だろう。すまん、ついうっかり。
近くにいたカーチェスは、はぁ、と額に手を当てて呆れていた。恐らく、俺ではなく使用人達に、だろう。
「数週間しか滞在しないが、よろしく頼むよ」
「はっはいっ!」
声を揃えて返事をしてくれたが、そこまで気合いを入れなくてもいいと俺は思う。屋敷の主の突然の帰宅で焦っているのは分かるがな。
屋敷の中に入ると、まぁ予測はしていたが……お通夜だな。俺が憑依する前の首都の屋敷の通りだ。これは早急に取り替えねばならないな。後でカーチェスに指示をしておこう。
この屋敷は城みたいなものだから当然広い。だが、あまりここにいなかったダンテでも幼少期はここにいたらしく、記憶に屋敷内の構造はちゃんと入っている。だから迷子になる事は無いだろう。
俺がここに来た理由にはとある目的があった。だが、それのついでに屋敷の現状把握もしておこう。せっかく苦労してここまで来たのだからな。
……と、思っていたのだが。
「お茶、お淹れしましょうか?」
「あぁ、ありがとう」
「はいっ!」
何故、周りにメイド達が多いのだろうか。端に立って待機しているようだが、こんな人数は必要ないと思うんだが。首都の屋敷よりこちらの屋敷の方が雇っている使用人の人数は多いが、暇なのか?
「ぬるくなっていませんか? 新しく淹れ直しましょうか?」
「いや、いい。折角淹れてくれたんだから勿体ない」
いや、そこでキャ~! と盛り上がらないでくれないか。
なるほどな、俺を見に来たのか。視線が痛い。俺が視線を向けると明後日の方向に視線を持っていくのに、手元に戻すと視線を感じる。おいおい、分かりやすすぎだぞ。これでは作業しづらいんだが。
そんな様子を見たカーチェスが早々に追い払ってくれたのには感謝した。
だが、それは食事中もだ。
「ワイン、お注ぎしますね」
「あぁ、ありがとう」
給仕の者も女性。顔を赤く染めているのはどうしてだろうか。風邪か? あぁ、因みにワインは数日前に購入したものだ。
それに、壁に並ぶメイド達は一体何人いるんだ。実に食いづらい。しかもこの食事は豪華で量も多い。これを全部食べろと。ダンテは男だがさすがにこの量は無理だぞ。胃袋が破裂する。
これはまさか、と思ったが予測的中。湯浴みの際にもメイド達が集まってきて、最終的にはご退場となった。鼻血を出して。貧血にならないよう気を付けてな。
「申し訳ありません……ダンテ様のご帰宅に使用人達は浮足立っているようです」
「いいさ、こんなに変わった主人を見て戸惑う事は分かっているからな」
「……私の方から言っておきます」
とりあえず、俺はすぐにでもここに来た目的を果たそう。早く取り掛からないと時間がかかってしまうからな。
「カーチェス、後でブルフォード領の領民達の帳簿を持ってきてくれ」
「畏まりました」
さて、一体どういう反応を見せてくれるのかな。楽しみだ。
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【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~ 楠ノ木雫 @kusuta
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