幼馴染みから告白されたが彼は私の中身がオッサンだということは知らない

龍宮焔

第1話

「好きだ…桜咲さくらざき、俺と付き合ってくれ。」

「っすあ!?な、なななんだ急に!?あ、おいミスったじゃないか!!?クソッ新たな嫌がらせの方法か!?」


 部屋で並んで格ゲーをやって遊んでいた隣の幼馴染みが私に告白してきたせいで、リーサルだった最後の大技の操作入力を間違え、しょっぱい投げ技で倒す結果になったのは絶対に私のせいじゃない。


 ともにクラシックレバーレスで争われる私達の戦績は常に20先を挑んでくる格ゲー歴の短い彼を鼻で笑うかのように、いつも私が一勝も与えず勝ち越している。


 当たり前だ。まだ13歳という年齢であるが、このシリーズを30年以上やっている私が中学生の小僧に負ける筈も無い。


 見るからに貧弱根暗で勉強もスポーツも何も出来ない超絶ド陰キャな私であるが、何でも軽くこなしてしまう彼に負けない自信がある。


 画面上には今は弱キャラと呼ばれるこのシリーズの初代主人公「ロウ」が誇らしげにでかでかとポーズを決めていて、You Win の文字が大きく表示されている。


「いや…マジだ。桜咲春芽はるめ、俺はずっと前からお前の事が好きだった。」

「へ、へー…そう……」


 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ…


 意識して押してるわけでも無いのに私のガードボタンを連打する指は止まらない。口はパクパクと動き予想外の画面外からの攻撃をジャストパリィする術を私は知らない。


「…こ、断る。」

「なぜ?」

「そ、それは…君が私より弱いからだ…」

「強くなれば良いのか?」

「……考えなくもない。」


 もはやKO寸前の私は訳の分からない理由をでっち上げ、幼馴染みである完璧人類な茶髪イケメンの夏目なつめ耀太ようたの告白を断る。無言で立ち上がり扉の前で振り返った耀太はそんな私に宣戦布告してきた。


「…一週間後、再戦を申し込む。」


 そう言い残し大まじめな顔して扉を閉めて去っていった幼馴染みを座ったまま見送り、一人残された部屋で私は仰向けになって倒れ混む。ボブっぽい黒髪に地味な顔立ちのモブっぽい役割。それが今世の私の役割だった筈なのにどうしてこうなった?


 とある日曜日の何気ない午後、隣に住まう物好きすぎる幼馴染みに、私は中身が前世30年以上生きたオッサンであると伝える事が出来なかった。


「…やばっ、れ、れれれ練習しなきゃ!アイツは絶対直ぐに追い付いてくる!ま、負けたらBL街道まっしぐらだ!!私は今世こそは可愛い女子と恋愛がしたいんだ!!!」


 これが私が趣味だった格ゲーに命をかけるようになったキッカケで、いつの間にやらネット上では「サクメハル」という弱キャラで連戦連勝を重ねるロウ使いの異端児の名前が広まって行くのだが…それはまだ少し先の話である。

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