君は風 音も匂いも あたらしく ここに根を張る 私を揺らす

 映画はあっと驚くどんでん返しで面白く、私がお気に入りのビストロでとった食事は美味しかった。

 紀本君と一緒にいると、これまで当たり前だった景色も匂いも味も新鮮に感じて、時間はあっという間に過ぎていく。

 これからどうなっていくのか、私がもっと歳を取ったら……なんて、不安を挙げればキリがない。でも、今はこの愛しいと思う気持ちを大切にしてみたい。


 デートの終わり、彼は家の玄関先まで送ってくれた。

 最後に、今日のお礼と気になっていたことを訊いてみた。


「本当に楽しかった。実はね、私も紀本君のこと結構前から素敵だなって思っていたんだよね。紀本君はいつから気にしてくれていたの?」


「俺は、一目惚れです。初めて会ったあの時から」


 それは、いったい何年前……数えている途中で紀本君の顔は近づいてきた。


「ずっと、好きでした」


 初めてのキスらしく、軽いそよ風のようなそれは、私の中でカチコチに固まっていた感情を吹き溶かしていった。

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君は風 音も匂いも あたらしく ここに根を張る 私を揺らす 碧月 葉 @momobeko

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