愛とか恋とか多分そんなんじゃないけれど

白川津 中々

◾️

いざ女の子になってみると不思議な違和感があった。


身も心も女の子になりたいと思い金を貯めてタイへ行き工事を結構。その他骨格レベルでいじって完全に性の転換を果たしたのに、何か引っかかるものがあるのだ。


「女の子として、まだ恋したことないからじゃない?」


タイで知り合った転換仲間に相談したらそんな事をいわれた。正直浅くないか、脳内に子宮ができたのかと思い興醒め。「そうかなぁ」と失望混じりに応えて終わる。俺は女の子になって可愛い服を着たい。柔らかく愛らしい挙動をしたいと思ったから男を捨てただけなのだ。恋愛をしたいわけじゃない。ファッショントランスと蔑まれるかもしれないが昔からの夢。非難されても否定されるいわれはない。ともかく俺は、女の子として生きたいだけなのである。


さて、女の子になったからといって働かないわけにはいかない。俺は新しい職場に女の子として入社した。仕事は小さなアパレルメーカーのデザイン。昔から服飾関係の仕事に憧れており、独学だがレイヤーの衣装など作った経験があって、それが採用の決め手となったわけだが、心が男の俺は、女だらけの職場で思ったように馴染めず一人でいる事が多い。そんなわけで、今日も一人で安弁当を食べているのだった。


「丸井さん」


弁当を食べる俺に声をかけてきたのは澤村という男だった。総務として働く彼は顔立ちがよく、俺以外の社員がよく話の種にしている。物腰柔らかく俺も嫌いではない。しかし雑な談を交わす程親睦深いわけでもないから、話しかけられて少し戸惑いを感じた。


「丸井さん、いつもお弁当ですね」


「えぇ、はい」


「今度、どこか食べに行きませんか?」


「すみません節約中でして」


整形費用で借りたローンが存外重い。


「奢りますよ」


「いえ、悪いですよ」


「……あ、嫌な感じですかね、僕とご飯行くの」


「あ、そういうわけじゃないです」


なんだ、面倒だな。


「ならいいじゃないですか。明日行きましょうよ。何食べたいですか?」


……いいや、飯くらい付き合ってやろう。


「ラーメン」


「え?」


「ラーメン食べたいです」


「あ、ラーメン。なるほど。でも、意外ですね」


「なにがですか?」


「女性って、あんまりラーメン食べられるとこ見られたくないみたいで」


「へぇ」


「あ、別に丸井さんがおかしいってわけじゃないですよ」


「はい」


「……じゃあ、明日ラーメンで。よろしくお願いします」


「はい」



会話は終わり、澤村は何処かへ行った。


「……」


ラーメンは好物である。なんだかんだで楽しみだ。

しかし、それ以上に、彼と話していると、何か楽しかった気がする。まともに男と会話するのが久しぶりだからだろうか。


もっと、話してみたいな。


そんな事を思った。

俺は存外、寂しがりなようだ。

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