第4章 潜入編
第25話 決行
◇作戦当日◇
作戦会議からの3日、俺は特にやることもないまま作戦の日を迎えてしまった。
この日は朝方4時に起き、土田に返送の仕方を教えてもらいながら、作戦の再確認をしていた。
「いい?変装にはこの人工皮膚と小型変声機を使うんだよ。変声機はバレないように、人工皮膚の内側に貼り付けておかないとだめだよ」
「ああ、分かった」
その"人工皮膚"だとか、"小型変声機"だとか、日常生活では手に入れられない物を何故土田が持っているのかは疑問だったが、そういうものだと思い、返事をした。
「田嶋は注意深いからね、初日からやらかしちゃ駄目だよ。あと困ったら、靴に備え付けてある小型無線機を使うんだよ」
ポンポン物が出てくるな、いつの時代の青狸だよ。
なんて思いながらも、そういうものだと、再び脳に言い聞かせる。
「あと寂しくならないように、私の写真でも持っていく?」
「持ってかねえわ!」
まったく、作戦当日だというのに相変わらずだな土田は。
「まあそんなことはどうでもよくてだね」
…どうでもいいならするなよ。
「改めておさらいするよ。君は午前8時に海城組の新規入門者として本部に行く。無事入門できたら、後は君次第だ。直接組長に話しかけるも良し、ひたすら仕事をこなし評価を上げるも良しだよ」
「ああ、わかってる」
相変わらずの無茶振り作戦だな。
まあでも、土田ですらここまで不透明な作戦しか立てられない組である海城組のヤバさはよく伝わってきた。
慎重さを忘れないようにしないとな。
◇a.m.8:00 Mission start◇
時刻は遂に8時になってしまった。
俺は今、海城組本部の客室のソファに座らされている。
ヤクザの事務所が新入りをここまで手厚く歓迎する意味は分からなかったが、特に探ることもできないので、大人しく待つことにした。
5分経つと、俺が1度あったことがあるあの男、田嶋魁哉がドアを開けて入ってきた。
入ってきて早々俺と目が合うと、田嶋は俺を睨みつけながら、
「お前が新入りか」
と言ってきた。
あまりの威圧感に圧倒されかけたが、俺は必死にこらえ、余裕そうに、
「その通りです。田嶋組長」
と落ち着いて返してやった。
すると、田嶋はそれを聞くなりにやりと笑い、
「俺を見てそんなに余裕だとは大したもんだな。過去に真面目に返せたのは1人か2人ぐらいだぞ」
と言ってきた。
どうやら初対面の印象づくりはうまくいったようだ。
そう思っていると、田嶋は、
「じゃあそろそろ俺は行くぞ。新入りの顔をみたかっただけだしな」
と言い、足早に去っていきそうになった。
だが、このままではまだ印象が薄いと思った俺は、背を向けた田嶋に対して
「待ってください。俺の名前は佐野雄也(さのゆうや)(偽名)といいます。是非お見知りおきを」
と言った。
すると、周りに立っていた下っ端らしき組員達が、
「新入り!組長に対して失礼だぞ!」
「てめぇしばかれてえのか!」
など、様々な罵詈雑言を浴びせられ、殴られそうになったが、
「俺の許可無くあばれんじゃねえぞ」
と、やや脅しに近い言葉で、田嶋がストップをかけた。
すると田嶋は、俺の方を見て、不敵に微笑みながら、
「いいぜ、覚えておいてやるよ。佐野」
と言い、再び俺に背を向け、部屋を後にしていった
不倫盟約 鍵香美氏 @kirikirisu119
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。不倫盟約の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます