第21話 陛下からの贈り物



「そろそろ休憩しませんか?」


「はい」


 私はハンス様に誘われて、休憩を取ることにした。

 噴水横に用意された席が空いていたのでその席に着くと、さすが侯爵家ともいうべき素早く侍女がお茶を持って来てくれたり、軽食や御菓子を運んでくれた。

 私は、ハンス様と世間話をしながらお茶会を楽しんだ。


「皆、そろそろよいだろうか?」


 しばらくすると、アイバル侯爵が声を上げた。


「ああ、始まりますね」


 ハンス様はそう言って立ち上がったので、私も席を立った。そして皆様が立ち上がって中央に歩いて来た。


「先日、我が息子ロビンが陛下より、宝印を賜った」


 皆から「おお~」と声が出た。

 ハンス様のお兄様が前に出て、重厚な箱をテーブルの上に置いた。

 

 箱を置いたのを確認したアイバル侯爵は、ロビンを見ながら言った。


「ロビン、皆に披露せよ」


「はい」


 アイバル侯爵の言葉で、ロビン様が箱を空けた。

 

 ――え?


「……ない」


 ロビン様の小さな声が聞こえた。

 呆然とするロビン様の間から箱の中を見た。


 箱の中は、赤い毛氈が見えるだけだ。

 アイバル侯爵家を表す石は翡翠。

 本来なら、陛下に賜った緑色に輝く翡翠が使われたが入っているはずだ。


「な、なんだと!?」


 アイバル侯爵が声を上げ、辺りに緊張が走った。

 

「どういうことだ?」

「どうしてないのかしら?」

「陛下から賜った宝印でしょう?」


 皆も焦ったように口々に声を上げた。


「なぜ……朝に確認した時は……確かにあったのに……」


 ハンス様が隣で青い顔で呟いた。

 皆が混乱する中、ベアトリス様が立ち上がり、声を上げた。


「皆、止まりなさい。衛兵、怪しい動きをしていないか、見張りなさい!!」


 私たちは何も言わずに、身体を硬直させた。

 するとベアトリス様がアイバル侯爵に向かって言った。


「その宝印はどこに保管していたの?」


 アイバル侯爵が、「二階の執務室に保管していました」と答えた。


 私の背中に汗が流れた。

 イヤな予感がする。

 そして、ベアトリス様が言った。


「今日、二階に行ったのは誰だい? セバス!! いるんだろ?」


「はっ!!」


 すると背の高い執事が声を上げた。執事は、私を見ながら言った。


「アイバル侯爵ご家族以外では……侍女数名と執事、そして……シャルロッテ・リンハール嬢です」


 ――二階にはシャルロッテの控室しかありません。

 

 私は咄嗟にハンス様の言葉を思い出した。

 確かにハンス様は、二階に控室を用意していたのは私だけだと言っていた!!


 私が息を呑むと、ベアトリス様が大きな声を上げた。


「全員の持ち物検査を!!」


 そう言った後に、目を鋭くしながら私を見ながら言った。


「そして……リンハール家の令嬢を捕らえよ」


 その瞬間、私は衛兵に両手を押さえられた。

 一瞬、衛兵を投げ飛ばして逃亡しようかと思ったが、この場で抵抗したところで、問題が大きくなるだけだ。


(逃げたとしても家に迷惑がかかるし、何もしていない証明ができなくなるわ)


 私は大人しく捕まることにした。


「待って下さい!! シャルロッテが宝印など盗むはずがありません!!」


 ハンス様が声を上げたが、そんなハンス様に向かって、ベアトリス様が声を上げた。


「ハンス……お前、ずっとリンハール家の令嬢と一緒にいたのかい?」


「え……?」


 ハンス様の瞳が揺れた。

 そう、ハンス様は他ならぬベアトリス様にあいさつをするために……私から離れた。

 私は一人で部屋にいて、庭を眺めていたので、アリバイは……ないかもしれない。


「連れてお行き!!」


「はっ!!」


 こうして私は衛兵に掴まって屋敷の中に連れて行かれてしまったのだった。

 

 

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執事が大好き過ぎるので、降り注ぐ問題は全部解決します。超絶片思いですが(涙) 藤芽りあ @happa25mai

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