第2話 たびたち
―、時が経つと彼女が停留所に居た。
僕は一心不乱に彼女に駆け寄り、大丈夫か?と質問をした。
彼女はただ「大丈夫」と答えて、もう一度お話を聞かせてほしいと答えた。
僕はどこかこらえきれなかったのか、涙があふれんばかりに都会の話をした。
彼女はどこか遠い目で僕を見つめていた。
日が経つにつれ、彼女はどこか遠い場所を見ていることが多くなった。
僕は大丈夫?と聞いても、なんでもないと答えるばかり。
なにもないわけではないのはもう分かっていた。
別れたあと、彼女のあとについていき、家を見つけた。
彼女の家は広く、僕はその大きさに圧巻してしまった。
すると彼女は門の前に辿りつくやいなや、倒れてしまった。
だがその瞬間を支えたお姉さんが居た。
そうして屋敷の奥へと入っていった。
後日、家から出ていくお姉さんを見つけ、問い詰めた。
彼女に何が起きているのか。
聞けばかみならしの儀というのは、魂をゆっくりと離していき、神へと成らすというものだった。
つまり彼女は現在進行系で神にへと成っていたのだ。
僕はまたも激怒する。「どうしてなにも言ってくれないの」と、お姉さんは泣きながら答えた。
「あなたに会いたいからってなにも話さないでって言われたの」とそう泣きじゃくってしまった。
彼女は僕になにも心配させまいと、考えた末の言葉だったのだろう。
僕は決めた。―
少女が気だるげな体から目を覚ますと、自身の手を握っていた少年が目の前に居た。
少女は状況に理解できずに驚くと少年はただ一言「知っているよ」と答えた。
少女はそれを聞いてしまった。
後悔だろうかなにかが目を泳がせる。
泳がせれば泳がすほどに涙が目からこぼれていく。
ごめんなさい、ごめんなさいとただ泣いていた。
気付くとセミはジリジリと鳴いていた。
そこからベッドから離れられない彼女との会話が続いた。
楽しく笑い、時にはお姉さんも交じったりと楽しい日々が巡った。
だけど、もうすぐ儀は終わる。
それは容赦なくやってきた。
彼女は呟いた。
「わたしは怖くないの もし魂が離れ離れになっても、君の近くに居る」と、小指を少年の前に差し出す。
「ねぇ一緒に色々な所に旅に行こうね」とか細い声がどんどん小さくなっていった。
そして、― 彼女は眠ってしまった。
セミの声はまだジリジリと鳴いており、夏風僕の耳元に囁く。
「一緒に居るよ」と。
僕はただただ泣くほかなかった。
両親に説得し、旅をすると言った。
その資金繰りはお姉さんと納得してくれた両親から来ていた。
僕は言う。「さぁ一緒に旅を出よう」と。
少女は少年の背を見て、うんと頷いた。
旅をした。
美しい夕日、人だかりが多い都会、夜にきらめく絶景、祭りで騒ぐ人々の活気。
世界中を回った。
その際の旅の苦労を、彼女と話し合った。
少年は「ほんとあれ大変だったよ」と聞くと少女はうんうん「大変だった」と頷いたりしていた。
そこには以前と同じように楽しい2人の会話があった。
あれが美味しい、これが美味しいと一つ一つ思い出のピースを作り上げていった。
そして2人が行きたかった絶景を目にした。
ドーバーの白亜の崖。
彼女に似合う白い崖、赤く染まりだす青天に涼しく心地よい風が草原撫でていった。
少年は「ようやくここまで来たね」と
少女はそれに「一緒に行きたかった場所だね」と答えた。
だけど少年は「ここが旅の終わりだ ここでもう帰ろう」と冷たく言う。
それを聞いた少女は「どうしてもっともっと一緒に旅を!?」と言い切ろうとした瞬間、少年は泣いていた。
突然な行動に驚いた少女は「どうしたの」と聞いた。
少年は叫ぶ。
「僕はなにをしているんだ!!」
「僕は....彼女がいないのになんで1人を旅をしているんだ や、約束だったんじゃないのか!! 一緒にって!!」
そう嘆いていた。
少女はその言葉に理解ができなかった。
「僕は1人だったんだよ....
ずっとずっとひとりぼっちの旅だったんだよ」
少年は周りを見渡す。そこには誰もいなかった。少年は少女の名を叫んだ。
少女は言う「居るよ」と。
少年はこらえきれない顔で呟く。
「やっぱり居ないじゃないか」
少女はその言葉を理解する。
口を塞いでしまった。
そう少年はただ独り言を呟いていただけだった。
ただ少年はひとりぼっちの旅をしていた。
少女はただ少年についていただけの神様だった。
少年はまたも慟哭する。
「僕には関係なかった! 僕は、僕は君が好きだったんだ!
一目惚れだった 髪がきれいだと
あの瞳がきれいなんだと思った!!
夕日が差した君の顔が美しかったんだ
だけど君は居ない もういないんだ...」
少女はなにも感じ取れなかった。
それはかみなりさまになってしまったゆえか...
「君が言った! みんなのためだって
そのみんなに僕は入ってなかったのか!!
結局僕はなんだったんだよ!!」
少女は動揺する。見えないはずの少年の言葉が少女に響きを与えた。
「なんで....なんで...君だったんだよ
ねぇどうして君じゃなきゃダメだったんだ!」
彼は誰もいない空へと叫んでいた。
「結局そうだ 君は答えない 答えられないんだ なんてたって神様なんだから
もう僕は帰る もう君とは...会えない
最初からずっと...ずっと! 僕の独りよがりだったんだ!!
ずっと一人だけの旅だったんだよ!!」
彼は叫ぶ。やるせない気持ちが決壊するように叫ぶ。
少年は涙ぐみながらも帰路へと向かっていった。
少女はただその少年の背の小ささを見つめた。
少年とは一緒に旅をしていなかったと。
ただ少年の背中を見ていただけだったと。
少女の何も感じない心に鼓動が戻る。
目に涙があふれていく。
確かに感覚は失ったかもしれない、だけど心揺さぶるものはわたしは失っていなかった。
少女は叫んだ。
「わたしもあなたが好きなの!!
初めてあったときから一目惚れだった
あなたの笑顔が、あなたの話が、あなたの夕日に照らされた顔が愛おしかった
.....わたしはやっと今気づいた
けどどうして今気づいちゃったの?....」
もう遅かった。かみならしは終わり、自身の体は本殿へと送られた。
自身の心を悔やんでしまう。
この先ずっと一緒に居られないんだと....
自分は先にいってしまったんだと...
そう顔をふせると、誰かの足が見えた。
前に顔を向けると少年が居た。
少年は言う。
「もし....もし!! 一緒に来ているなら
一緒に旅していたらなら!!」
その顔はひどく、ああなんてひどく
「過去も未来も関係ないんだ
俺たちには今があるんだ!
今を生きなければ、過去を想うこともできない
今を生きなければ、未来を見ることもできないんだ
今この一瞬でいいから この一瞬でいいから!!」
少年のまっすぐな想いが少女の心を揺さぶる。
少女は少年の頬をさすろうとする。
「君はかみさまなんだろ!! なんだってできるはずなんだ なんだって!!
もうこの先のために、いや誰かのためじゃなくて自分のために生きていいんだ」
少年は歯を食いしばる。
「ぼくのために一緒に生きてほしい!!!」
少年は泣く。
泣く体はないのに、何も感じないはずなのに、心が泣き叫んだ。
少年は何もない体を抱きしめた。
夕日が少年少女の影を映した。
―かみならしの儀が終わり、姉は妹の体を勝手に預かり、自宅で匿っていた。
頬をさするがなにも反応しない妹に涙があふれんばかりだった。
村は大騒ぎだろう。
かみなりさまは居なくなり、本殿に保管した神体がどこか行方不明となっているのだから。
だが姉も家族も覚悟していた。
自身の娘をただ少年にもう一度会わせたくなったのだ。
そうして少女の体は涙が溢れ出る。
彼女の世話をしていた姉がその姿に驚いた。
ひどくやせ細った体で、歩きもできないのに、
少女は慣れない足のまま、少年が待つ場所へと向かっていった。
―カナカナとセミが鳴く、とある夏の夕暮れ。
夕日がさしこむ部屋の外の縁台に寝込む男の子が居た。
男の子は本を読んでいるようだった。
そして男の子の前に影がさす。
そこには白い髪の女の子が居た。
「なに呼んでいるの?」と聞くと、男の子は何か想うかのように黙ってしまう。
「なに? なんでだまっちゃうの?」と不思議そうに投げかける。
男の子はううんと首を振る。
「昆虫の図鑑を読んでいた」と答える。
女の子はそっかと答えると、「ねぇ一緒に遊ばない?」と聞かれ、男の子はうんと立ち上がり、その部屋をあとにしていった。
夕日がさしこむ部屋に微笑むかのようにもゆる2人の影が伸びていた。
それでもセミは鳴き続ける。今もなお―
君といた夏やすみ 榊巴 @SAKAKITOMOE
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