第62話「エンディングのひとつ」
フリークスコードを使用して3倍の出力で放ったバード・バニッシュは、
「ッ!」
息を呑まされる惇は、コンコルディアのメッセージが勝利を告げているのを見れないくらい。
そのクレーニュを抱き留める機化猟兵があった。
「ジュンくん、ナイス!」
普段ならばスキップしてしまう処理中のムービーも、この時ばかりはエンディングだ。
その中で、惇にはいえない言葉がある。
――勝ったよ。
これだ。
撃破したから勝ったのではない。
惇たちの勝利は、惇が想いを振り切った瞬間に決まった。「何が楽しいものか!」といい出した時には、撃破しても、撃破されても敗北する未来しかなかったのだ。それが覆ったのは、対戦に勝利したからでは、断じてない。
今、相応しい言葉は……、
「ただいま」
これ以外にない。
皆で遊び場へ帰ってきたのだ。
弥紀にとっても、その一言に凝縮された意味は胸に来るものがある。
「お帰り」
ゲーム同好会に誘った時は不承不承だった惇は、この瞬間、本当の意味で会員になった。
弥紀に抱き留められるのは不格好かもしれないが、誰も笑いはしない。
サムも手を振る。
「格好よかったヨ!」
見て目ほど楽勝ではなく、寧ろ苦戦した。クォールが打開策を出せなければ、AI制御の
それを指して、コムギは笑う。
「マグレだけどね」
今のゲームには、多くの「マグレ」があったのは確かだ。クォールの判断と指揮、バファロー・リード艦隊の奇襲と中央突破、その後の
笑い合う面々に、一人、笑っていない声があった。
「まぁ、一つ格好がつかない事がある」
その声はベクター・ツヴァイト。
「生き残っちまったんだよ」
決死の覚悟で800ミリ
戦闘不能になったボロボロの艦橋で、舵に背を預けて座るベクター・ツヴァイトの顔に苦笑い。
「死亡フラグがへし折れてた」
自嘲気味にいうベクター・ツヴァイトだが、その冗談めかした口調は皆の笑いを呼ぶ。特に高浜が笑い、
「フラグクラッシャー、良いじゃないですか」
そんな笑い声に、惇の慌てた声が割り込む。
「アシュリーさん!」
告げたい言葉があるアシュリーへ向けて。
僕を許さないでくれといったアシュリーにとっても、この光景はエンディングだった。
――納得のいく終わり方だったよ。
アシュリーが心中で呟いた言葉は、これで機化猟兵から降りる事を示している。
ログアウトしようとコックピットのボタンに伸ばしかけていた手を、惇の呼びかけがとめた。
「アシュリーさんは、最高の味方でした!」
「……」
手を止めたアシュリーが、惇の方へ目を向ける。互いにコックピットの中であるから視線が合うという事などない。それでも視線が交錯したと感じるくらい、惇がかけた声はアシュリーの心に到達できた。
「だから最大の敵でいて下さい! 俺とアシュリーさんとは、好敵手になれます」
好敵手――実際に耳にしたなどない言葉だが、アシュリーには苦笑いは浮かばない。
「随分、古風な言葉を使うよね……」
声が震えた。アバターに涙はないが、リアルでは泣いてしまいそうになる。
アシュリーに自身の選択を翻させるには十分な言葉だ。
「あぁ、また」
また――アシュリーが中途半端に止めてしまった声には、続きがある。
惇の横に愛機を寄せたクォールは、軽く拳を当て、
「僕ともね」
「あぁ。また――」
惇が声を出す頃、演出が終わる。
「また遊びましょう!」
それはギリギリ聞こえたか?
***
ログアウトした惇が改めて見るもの――。
元は倉庫だったらしいロフトつきの部室。
まだ一ヶ月も通っていない部室を、やっと見慣れたと思った。
深呼吸する惇へ、隣からカットグラスを持った手が伸びてくる。中身はレモネード。その透き通ったレモンイエローに浮かぶ氷が、カランと鳴る。
グラスを渡してきたのは、この部室に誘ってくれた従姉。
「はい、水分補給は大事だから」
弥紀へ「ありがとう」と告げ、一気に煽った惇は「はぁーっ」と大きく息を吐き出した。
「うまいな」
「それは当然よ。サムが手作りしてるんだもの」
弥紀が示す先で、サムは得意げに胸を反らし、
「もっと小さい頃、夏になったらスタンドを出してたからネ」
子供の頃から手作りしている味なのだ。惇は「おいしかったです」と告げてグラスをテーブルに置くと、こちらちびちびと飲んでいる晶へ近づく。
「それより――瀬戸先輩」
「ん?」
晶が気の抜けた返事をするのは、半ば態とである。アシュリー同様、ここでゲームを辞めてもおかしくない雰囲気があった惇なのだから、気を揉ます返事をしたかった。
「俺、ゲームやりますよ。改めて、入会のあいさつです」
「うん」
晶は笑った。
「ようこそ。嬉しいよ」
笑い、いつもの調子を取り戻す。
「じゃあ改めて歓迎会ともいきたいんだけど、残念な事に、部室では花火をするのも、鍋をするのも禁止らしくてね」
思わず惇が笑ってしまうのだが、高浜が慌てるのだから冗談ではない。
「当たり前だ!」
「鍋は兎も角、花火なんてやったんですか……」
笑いを苦笑いに変える惇だが、「あーあ」といった後――、
「でもホットプレートは使えるから。BBQなんかはできるんじゃないですか? 瀬戸先輩」
「採用だ」
速やかに了承した晶を横目に、高浜は惇へ「お前もか……」と呟かされた。
それでも呆れ顔なのは高浜だけで、特に弥紀などは可笑しいという表情を強める。
「ショウちゃんと気が合うと思ったのよ」
惇も晶も、バカバカしい事が大好きなのだ。
激しいゲームとバカバカしい日常と――
Riot Fleets-市立峰高校ゲーム同好会の日々- 玉椿 沢 @zero-sum
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