第4話
そんなこんなで、それから私とハルトは時折教師陣の協力も得ながら、限られた時間の中で証拠集めに奔走した。
短い時間の中で証拠を集めきれるか心配だったが、思った以上に楽に終わった。隠す気があるのかと思うくらい、リアの証拠隠蔽がガバガバだったからだ。正直アホの子なんだと思った。
そもそも、デリックがこんなアホに惚れ込んでなかったら、エルミナが断罪されることも、この国が没落寸前まで追い込まれることもないのだが。
そして、決戦当日。卒業パーティーの日を迎えた私達は、証拠資料の束を抱え、敵地に乗り込もうとしていた。
「ミナ、行くで? 準備はええ?」
「うん、大丈夫! 営業成績トップのプレゼン能力見せたらあ!!」
「はは! かっこええ!」
自分の死刑が決まるかもしれない瞬間が迫っているのに、ハルトといるおかげで何でも出来そうな気分だった。
***
「エルミナ・マクラウド。僕は今日、貴様との婚約破棄を言い渡す!!」
場所は、卒業パーティーが開催されている学園内のホール。
王子デリックは決まったと言わんばかりの顔で、私に対して婚約破棄の宣言をした。彼の隣にいるリアも、悪そうな笑みが隠しきれていない。揃いも揃ってアホのようだ。むしろお似合いとさえ思えてくる。
私は小さく溜息をついてから、デリックに返事をした。
「ええ、承知いたしました、殿下」
「えっ!? あ、ああ、そうか。物わかりが良くて助かる……」
あっさりと引き下がったエルミナに、デリックは拍子抜けしたようだった。しかし、デリックはすぐに気を取り直すと、一つ咳払いをしてから自信満々な様子で言葉を続ける。
「それだけではない! 今日は貴様が犯した罪を全て断罪していく!! この資料を見ろ!!!」
バーンと突き出したデリックの手には、厚めの紙束が握られていた。しかし残念だったな。今日その資料に出番はないぞ、デリックよ。
私は彼を無視して、ハルトとアイコンタクトを取った。
「さて、お集まりの皆様。こんな茶番に付き合わせてしまって大変申し訳ございません。しかし本日は、皆様にどうしてもお見せしたいものがあるのです。こちらの資料をお持ちください」
私はそう言うと、ハルトと共にパーティーの参加者に自分たちの資料を配り始めた。
せっかくの卒業パーティーなのに、生徒の皆様にはこんな茶番に付き合わせて本当に申し訳ない。でも、いずれこの国の王になるデリックの愚行をここで止めるから許して欲しい。リアが断罪されれば、この国の没落ルートも回避できるだろう。
何食わぬ顔で生徒たちに資料を配っている私を見て、デリックは焦ったように声をかけてきた。
「お、おい、エルミナ。何をしている?!」
「殿下も一冊どうぞ」
「ああ、ありがとう。って、おい!!」
資料が皆に行き渡ったのを確認してから、私はデリックを無視して再度口を開く。ここからは私の番だ!
「皆様。本日はリア・バルダーソン侯爵令嬢が行った罪の数々について、この場をお借りしてご報告させていただきたいのです」
「なっ!?」
リアは信じられないという顔でエルミナを見たあと、半分悲鳴に近い声でデリックに詰め寄った。
「で、殿下。エルミナ様は嫉妬のあまり、私を
リアにそう言われたデリックは、ケツを叩かれたように私やハルトに対して喚き散らし始めた。
「あ、ああ。おい、エルミナ! これはなんのマネだ!! それにレオンハルト! お前は私の友ではないのか!? いつの間にエルミナに籠絡されたんだ!」
やかましくさえずるデリックに、私は深い溜息をつく。
全く......見るに耐えない。王族ならもっと品よく振る舞えないものか。
私が眼の前の煩い男をじとりと睨みつけていると、威厳のある声をした一人のイケオジが唐突に現れた。
「デリック。エルミナ嬢の話を聞こうじゃないか」
「父上!?」
デリックは心底驚いたようにイケオジを見ている。私も初めて見る人物の登場に固まってしまった。想定外の事態だ。
(……ん? 父上? ってことは……国王やないかい!!)
私がバッとハルトの方を見ると、彼は悪戯っ子のように舌をペロッと出していた。どうやらハルトが国王に声をかけていたようだ。先に教えておいて欲しかったが、来る確証がなかったのだろう。予定にはないが、まあ、国王がいてくれた方が話が早くていいか。
私は気を取り直し、国王のいる前でプレゼンを始めた。
「では、まずは学校資金の横領についてです。資料の一ページ目をご覧ください。彼女は生徒会役員という立場を利用して、学校資金を着服していました。別紙に裏帳簿の写しがありますので、併せてご覧ください」
私の言葉に、会場が一斉にざわめき出した。国王も資料に目を通しながら、険しい顔をしている。
「嘘でしょ……」
「これほんとなの……?」
「リア様は誰よりも生徒のことを思って活動してらっしゃると思ってたのに……」
リアは処世術だけは上手かった。どう振る舞えば、相手にどんな印象を与えるのか、よくわかっているのだ。そのため生徒たちは皆、リアは崇拝の対象で、エルミナは意地の悪い悪女という認識を持っていた。
しかし、この事実を目の前に、生徒たちは手のひらを返したようにリアに冷ややかな視線を向けていた。
当のリアはというと、顔が病人かのように真っ青になっている。そして、会場のざわめきをかき消すかのように金切り声を上げた。
「こんなの出鱈目よ!! デリック殿下も何か仰って!!!」
リアの批判に、デリックも慌てて便乗する。
「そ、そうだ! この資料だって、きっとでっち上げに決まってる!! 僕が持っている資料こそ正しいんだ!!」
いや、お前はいい加減に目を覚ませ。恋は盲目とよく言うが、ここまで人をアホにさせるとは、いやはや恐ろしい。
私は盛大に溜息をつきながら、デリックに向かって尋ねた。
「殿下、その資料の情報はご自分でお調べに?」
「い、いや。全てリアが……」
「全く……疑惑がかかっている者の資料など信じないでください。そういうのはご自分でお調べにならないといけませんよ、殿下。それに私がお配りした資料は、私だけでなくレオンハルトや先生方とも協力して作り上げたものです。私一人がでっち上げたものでは決してございません。それに、物証も全て揃えてあります」
「は、はい……すみませんでした……」
私の説教に気圧され、デリックは素直に謝罪した。良くも悪くも素直であるこの王子は、だからこそリアに騙され、だからこそ周囲の助言をよく聞き、没落寸前の国から復興の道を歩めたのだろう。
「では、気を取り直して。皆様、続いて資料の二ページ目をご覧ください。こちらの資料は――――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます