第11話尻穴令嬢これにて完ケツ
結局、誕生パーティーが終わるまで、アレクセイはアナールウォッシュとお友達になっていたらしい。去り際に「また今度ちゃんと話すから!」と半泣きで言われて少しキュンとしてしまった。可哀想は可愛い。
「エリザベータでございます」
「入れ」
さて誕生パーティーの後、時間を作ってもらいジェイソンに会いに来た。こうしてジェイソンの書斎に来るのは何度目だろう。しかし、こんなに緊張したのは、アナールウォッシュの企画書を持ってきた時以来だ。
エリザベータの顔を見て、ジェイソンは微笑む。
「己の道が決まったようだな」
「わたくしそんなにケツ意がみなぎっておりますの?」
「腹痛を堪えている時と同じ表情をしているな」
「まぁ」
それはなかなか凛々しい顔をしているらしい。エリザベータをソファーに座らせ、ジェイソンは向かいに座る。ガーランドが紅茶をくれたので礼を言った。
ジェイソンはエリザベータの顔をしげしげと眺める。
「して、商会を継ごうという顔ではないな」
「ええ、お祖父様。わたくしお祖父様のようになりたいんですの」
紅茶で口を潤す。下手に飲むと下すので本当にちょっとだけ。先程の二の舞にはなるまい。
「私のようにか」
「ええ、お祖父様は、居場所を追われた人たちの居場所になられた方ですわ。大勢の人々を救われた。わたくしは、たった1人の心を慰める芸術を、誰かにとっての特別を繋ぐ架け橋になりたい。わたくしなりの方法で、誰かを支えたい。便利だから、役立つからではなく、そこにあるだけで価値のある、そんな一品を売りたいのですわ」
「なるほど、それは今のアナール商会では難しいな」
アナール商会は、まず貴族で流行らせて、市井におろす流れが多い。芸術品をオーダーメイド品を作るノウハウは少ない。
「それに、アレクセイ様のように、自分の芸術を見せる価値のないものだと思ってらっしゃる方を、もっと発掘したいのですわ。きっと、まだこの世には、人々の知らない芸術がある。わたくしはそう思うのです。それは、特別立派なうんちのように、本人にしか目の入らないところに隠されているのですわ」
そう、だからエリザベータ・アナールが選ぶ道はこれだった。
「お祖父様の後は継ぎませんわ。わたくしはわたくしの道を行きますの」
「ふふ、そうかい。こうもきっぱり言われると清々しいな」
己の道を示す力はデンに教えてもらった。
「でも、しばらくはアナール商会で学ばせていただきたいのです。開発のご協力も喜んでいたしますわ」
「ふん、まだまだ詰めの甘いお前さんは、せいぜい私のところで学ぶといい」
「相変わらず孫のわたくしには甘くていらっしゃるのね」
「孫が可愛くない祖父がいるか」
エリザベータが将来の夢を叶えるために必要なことは、芸術を見抜く審美眼、芸術を売れるものにする開発センス、そして経営センスに、まだ見ぬ芸術を発見するための人脈。アナールの力を大いに利用させてもらおうじゃないか。利用できるものは利用する、ユイに教わったことだ。
「でもアナール商会の部門には収まらぬと」
「もちろん。大切な未来の芸術家たちを、便利な道具にだけ使わせるわけには行きませんもの。業務提携と参りましょう。お祖父様」
「どこまでできるか見ものだな」
自分の譲れないものを守る力はヒップスに教えてもらった。
「しかし、まだ見ぬ芸術家ね…アレクセイ殿は嫉妬するのではないかね」
先ほど2人でのバルコニーで、婚約を申し込まれたと思っているジェイソンは、ニコニコと祖父の顔をする。
「え、えぇ…その件は…その、そうですわね」
「何?まさか断ったわけではあるまい。あんなに懇意にしておいて」
「ええっと、その…」
W尻穴危機一髪について説明すると、ジェイソンはあまりのことに大口を開けて笑った。ヒィヒィと声をあげるジェイソンに、ムッと眉根を寄せる。
「そんなに笑わなくても!」
「まさか、そんな時まで尻穴とはな」
「そんな時だからこそですわ!わたくしもアレクセイ様も繊細でございますのよ!」
「はっはっはっ」
「もうっ!」
この時は釣られて笑ったが、まさか、これから7年経っても、婚約が締結しないとは思わなかった。極度の緊張にお腹を下す2人らしい、お似合いだと、アスタリスク侯爵夫妻との間で笑い話になったんだとか。
*****
15歳の春。
ゲームのシナリオが始まる年だ。
悪役令嬢になるつもりはないが、ヒロインの腸内環境によっては仲良くできないと思う。いまだにエリザベータはストレスで便秘と下痢を繰り返しているのだから。
「エリーちゃんおはよう、入学おめでとう」
「アレクセイ様ごきげんよう。晴れやかなお顔ですわね」
「うん、学校でもエリーちゃんに会えると思うと嬉しくて」
「まぁ、わたくしもですわ」
こんなことを言いながらいまだに婚約が結べていないのは、貴族の間では有名な話である。2人肩を並べて歩くと、ずべしっと謎の音が後ろからした。
振り返ってみれば、1人の女性が盛大に転んでいる。貴族には珍しく顎先で揃えられた髪に、最近養子入りしたのかな?と思いつつ疑問を抱く。普通ならば、習い事として貴族に通う最中に髪を伸ばすものだからだ。
ともかく、まずは助け起こすのが先であろう。
「そちらのお方、大丈夫ですの?お怪我はございませんこと?」
「大丈夫ですか?医務室に連れて行きましょうか?」
「いてて、ちょっと膝を擦りむきましたが大丈夫です!ありがとうございま」
貴族っぽくない話し方の人である。あまり熱心にお勉強なさらなかったのかもしれない。女性はこちらを、というよりエリザベータを見て固まった。
「め、女神様!」
「…はい?」
女性はすごい勢いで立ち上がり、服についた砂を力任せに叩き落としていく。そしてそそくさと髪を直し、顔を赤くしてエリザベータに向き直った。そこで初めて気づく。この子、ヒロインだ。
「え、エリザベータ・アナール様!」
「はいなんでしょう」
害意はなさそうだが、尻穴を引き締めてかからねばならない。続きを促すと、ヒロインは右手をスッと差し出して頭を下げた。
「わ、わたしと友達になってください!」
…なんで?
「先にお伺いしたいのですけれど」
何故エリザベータを知っているのかとか、女神様ってなんだとか、聞きたいことはいろいろあるけれど。
ヒロインに会ったら真っ先に聞かなくてはと思っていたことが口から出てくる。
「あなたは毎日、健やかなバナナうんちをお出しになっていて?」
(全11話)転生悪役令嬢はケツ末まで尻穴がもたない(かもしれない) 雲ノ須ないない(くものすないない) @nainai_k
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