かぐや姫、色んな意味で婚活に苦戦中
「さぁ桜子、今日も出陣よ!」
「……かぐや様、ここ最近は連日のように行っていますが、もうそろそろ一区切り付けても良いんじゃないでしょうか?」
「何を言うの。何事も継続が肝心なのよ。ほら、急ぎましょう!」
私のその自信満々の言葉を聞きながら、桜子はため息をつきつつも足を動かす。今日もまた、山を下りて相席茶屋へと向かうのだ。
しかし、その道中で何やら喧騒が聞こえてきた。橋の向こう側に目を向けると、そこには見覚えのある人物がいた。
「……ユリネ?」
その場で揉めているのは、見知らぬ男性とユリネだった。男は執拗にユリネへと絡み、袖を掴んで何かを怒鳴り散らしている。
「こんなに尽くしてきたのに、なんで無視するんだよ!」
「だから、何度も言いましたよね。あなたとはもうお会いする気はありませんって……」
ユリネの声は震えていたが、その瞳には毅然とした意志が見える。とはいえ、男の勢いに押されているのは明らかだった。
「かぐや様!」
「ええ、分かってるわ!」
私はすぐに走り出し、その男の前に立ちはだかった。
「2人の間に何があったか知らないけど、ユリネは私の友達なの。だからこの状況を見過ごす事は出来ないわ」
目の前の男から非難めいた視線を向けられながらも、それで引く気はないとはっきりと宣言する。
「お前には関係ない話だ。これは、俺達の問題だ」
「だからと言ってこの状況で引き下がれる訳ないでしょ! まだ続けると言うのなら、何があったのか先に訳を話なさい!」
私がそう強く言い放つと、男は渋々と説明し始めた。
そしてその説明を聞いた私は、僅かに顔を顰める。この問題はどちらか一方だけが悪い訳では無く、両者にそれぞれ非があったからだ。
この男性は以前ユリネと相席茶屋で話した事がある人物だった。
その時、ユリネの巧みな話術によって魅了され、そしてユリネからも良く思われていると勘違いした。
それからは相席茶屋で出待ちをしたりしながら会う機会を作ろうとするも、その度にユリネからやんわりと断られ、それならばとユリネへの贈り物を色々と用意しながらアタックを続けて来たそうだ。
これだけを聞くと、全く脈が無いのにも関わらずアプローチをし続け、それでもなびかない相手に逆上したクズ男だ。けれど、これまでユリネと共に何度も相席茶屋へと通った経験から別の視点も持っていた。
ユリネは人から嫌われる事を極度に恐れているのだ。それがそれまでの人生経験から培われて来たものなのかは分からないが、ユリネは人から極力嫌われないように言葉を選んでいる節があった。
だから恐らく、この男性からのアプローチを断る際も、何かしら言い訳をしつつバッサリと切り捨てるような事は言わなかったのだろう。
「……そういう事ね。ユリネ。これは貴女にも責任の一端があるわ。だからしっかりと逃げずに伝えなさい」
私がユリネの目をまっすぐ見てそう告げると、ユリネはその視線を弱々しく揺らし、けれどすぐにその視線に力を込めて見返して来た。そしてゆっくり前に出て、目の前の男性と向き合う。
「私が貴方とお付き合いする事は絶対にありません。どんなに気持ちを伝えられてもです」
ユリネはキッパリと断った。そしてそれだけで終えず、その場で頭を深く下げた。
「それと、本当にごめんなさい。これまできっぱりと断らずに、可能性があるような素振りを見せたせいで貴方をこんなにも傷つけてしまった……」
その言葉を聞いた男性は深く肩を落とし、「俺も悪かった……怖がらせてしまって済まなかった」とぽつりとつぶやき、歩き去っていった。
「……あの人だけじゃなく、多分他にも沢山の人を傷つけて来たんだろうな。……あ~あ、本当に私はダメダメね。自分は上手くやってるって思ってたんだけど、とんだ思い上がりだったわ」
ユリネは目に涙を浮かべながらも、気丈に微笑む。その姿に私は心を動かされ、真剣な顔でこう告げた。
「安心しなさい。ユリネに相応しい相手は私が絶対に見つけるわ! それでももし、万が一良い相手が見つからなかったとしても……その時は私がユリネを一生守ってあげる!」
その一言に、ユリネの瞳が大きく見開かれる。頬が赤く染まり……震える声でこう言った。
「かぐや……どうしよう。今のセリフ、凄く痺れたんだけど」
「……はい?」
一瞬何を言われたか分からず固まる私をよそに、ユリネは一歩近づき、熱い視線を向ける。
「私、視野が狭かったわ! そうよ。こんなハイスペックで頼りがいがあって、甲斐性も申し分ない相手が目の前にいたじゃない!」
「ちょっ⁉ あんた何言ってんの! 私にそういう趣味は無いから! 私が言ってるのは、あくまでユリネが婚活に失敗しても安心してって言いたいだけで!」
その場の空気が急激に変わる中、桜子が私とユリネの間に割って入ってきた。
「待ってください。かぐや様に一生養われるのは私です。私はかぐや様の元で一生安泰に過ごすんです」
「あんたまで何を言ってるの、桜子! 私は理想の殿方を見つけるために頑張っているのよ!」
「でも現実問題、今の所まったく上手く行ってませんよね? もういっそ、こういう路線もありなのでは?」
その指摘に衝撃が走る。
「……どうしてこうなったのかしら。私の理想は普通の幸せな結婚だったはずなのに……」
相席茶屋に向かうはずだった道の上で、ため息をつく。そんな私の様子を見ながら、桜子とユリネはそれぞれ譲らぬと視線を交わしていた。
「だぁあああ、もう! とにかく、私は殿方との理想の結婚生活を目標にこれからも行動し続けるから、貴女達も選択肢を狭めずに行動しなさい! ……それでもし上手く行かなかった時は」
「「時は?」」
「ちゃんと貴女達の面倒も見るから、安心してついてきなさい!」
場のノリと勢いで謎の男気を発揮した私。
どうやら私の婚活はこれからも苦戦していく事になりそうだ。
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本作を最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました( ⸝⸝•ᴗ•⸝⸝ )
本作はカクヨムコンテスト短編賞への応募作品となっております。
ですので是非、本作を読んで面白いと思って頂けましたら、★やフォロー、レビュー等で応援頂けますと大変嬉しいです!
ネクスト賞を受賞して長編小説化を目指しておりますので、何卒応援の程よろしくお願い致します。
かぐや姫、スペック高すぎて婚活苦戦中!? 七瀬 莉々子 @nanase_ririko
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