壱 外道は巡る
夕日が砂利道に溶け落ちている。
ただ呆然とその赤を眺めている自分に、ふと気づいた。
夕日を見るたびに思う。
なにか大切なことを忘れているような気がする。
その証拠に、今日もまた、胸には言葉にするのが難しいもやもやが赤く渦巻いていた。
あと少しで何か思い出せそうな、そんな赤だった。
だけどそれも、あいつが廃屋から顔を出すとどこかへ消えていく。
「おい、次行くぞ。ここは何もねえ」
ぼさぼさ髪の痩躯。髭面の男が、手のひらの目でこちらを睨み下ろす。
「聞こえねえのか、おら」
勢いよく振るわれる足。
腹に鋭く足先が突き刺さる。熱い激痛にたまらず胃液を吐き出した。
「日が暮れるまでには離れるぞ。ここいらにはオゴメが出やがるって噂を聞いた」
先を行く男の背中を見上げながら付いていく。
夕日は尚も赤く照りつけているように思えた。
何気なく振り返ると、村の中央に腰を据える涸れ井戸が目に留まった。
その足元で頭を下げる白く枯れた花が風もないのに僅かに揺れる。
それをみた途端――
ふと。
ふと、頭の片隅に、ほんの一瞬――
少年の顔が過った気がした。
自分と同じくらいの年頃の少年だった。
恐らく、会ったことはない。だけど、どこか見覚えがあった。
このどうしようもない世界のどこかにいるんだ。
会ったこともないのに、そう思えてならなかった。
それどころか、いつか必ずきっと巡り会うのだろうと。
出逢えば間違いなく仲良くなれるだろうという気がしていた。
なぜか痛む胸の奥で思う。
こんどこそ、きっと。
何のことなのかは自分でもわからない。
だけど、そんな言葉が、思いが心の底から湧いてくる。
こんどこそ、きっと――
きっと上手くやれる。
間違いない。
胸元がじくりとうずいた気がした。
今度こそやるんだ。
俺たち二人で。
了
外道は巡る 石黒義握 @yoshiaki_ishiguro
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