エピローグ

 穏やかに凪いだ海の上を、帝国海軍の潜水艦が航行していた。


 周囲に敵部隊はおらず、甲板上では乗組員たちが艦砲の整備や休憩をしている。


「どうして潜水艦の存在を知っていたんですか?」


「私が親衛隊の友人に頼んだんだよ。迎えを寄越してくれってな」


 帝国へと向かう潜水艦の甲板上で、ミハロとエレノアが、肩の触れ合うほどの距離に立ち、海を眺めつつ会話をしていた。


 太陽は落ち、紅掛空色を縁取る水平線が淡い白に光っている。


「ありが」


 礼を言おうとしたミハロの口を、エレノアは人差し指で押さえ、止める。


「礼は要らない。私も生き残りたかったし、部下を守るのも機長の立派な仕事だ。それに、私の教官に死なれたら困るからな」


 エレノアは、そう言ってウインクした。


 ミハロは驚いたように目を見開く。


「綺麗な空だな」


 心地よい潮風に少し赤くなった頬を撫でられて、ふと空を見上げたエレノアは、そう呟いた。


 薄い雲の棚引く空は、瞑色に染まりつつある。


「そうですね」


 水平線の先に、黒く大きな帝国本土が見えてくる。


 淡い夕日に照らされる大陸は、見る者を圧倒する威容を持っていた。


「きっと勝てます。我々はまだ戦える」


 ミハロは、そう呟いた。


 エレノアは頷く。


 彼女の瞳には、力強い煌めきが燻っていた。


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帰還 曇空 鈍縒 @sora2021

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